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蕨ヘイトデモへのカウンター - 2024年5月26日(日)/埼玉県川口市

2024年5月26日(日)、埼玉県川口市で行なわれたヘイトスピーチデモに対する抗議(カウンター)の記録
[動画+写真35枚+コースマップ]

 前週(5/19)に続き2週連続で、クルド人排斥を叫ぶ差別デモがJR蕨(わらび)駅東口エリアで行われ、同時にそのデモに対抗する人々も集まって激しい抗議も行なわれた。
 デモ自体は30分くらいで終わったショボショボなものであったが、その警備を行っていた埼玉県警察の酷さが際立っていた。

 差別デモ隊は川口市芝新町にある芝新町公園を出発し、「日本クルド文化協会」と「ハッピーケバブ」が入るビルの前を通行し、その周辺をぐるっと反時計回りで一周し元の公園に戻ってくるという900mにも満たないコースを30分かけて行進した。
 コースはすべて埼玉県川口市内であるが、最寄りが蕨駅のため呼称は「蕨〜」としている。

【動画】

2024.5.26蕨ヘイトデモへのカウンター(10分15秒)

 映像は集合場所の公園南側の封鎖地点を警備していた埼玉県警察機動隊の小隊長(警部補)の乱暴な言葉遣いからはじまる。デモが始まると警察は抗議者を道交法で脅し、差別デモ終了後には歩道を警察官で埋め尽くし通行人を物理的に排除しながらデモ参加者を駅まで送り届ける。その勇ましい姿は「警察の鑑」と言うべきもので、警察は思い通りに権力を行使して我が物顔で街を闊歩できるというのがよくわかる。(この映像を埼玉県警察の警察官募集ビデオで使ったら応募が殺到するかもしれない。)

 これは別に触れなくてもいい気もするが、今回7人で行進を行っていた差別デモの連中とは別に、ちょうど1週間前に自ら同じ趣旨の差別デモを総勢5人で行った神奈川県海老名市在住のレイシストが現場に来ていた。撮りたかったわけではないが日の丸を持って立っていたので、撮らない方が不自然なため一応写しておいた。(掲載映像:3分55秒〜)
 前週の自身が主催するデモを行った際、今回の主催者の悪口を言っていたので、まさかやってくるとは思ってもみなかった。他の団体がデモしている時に行動を起こせば、カウンターも分散してくれていつもより少ないし警察もいてちゃんと護ってくれるというわけだ。ネトウヨにとって差別は単なる娯楽なので、みっともない便乗ヘイトであってもなんでもいいのだ。

 個人的なことを書くと、前日は岩手でLGBTQプライドパレードの撮影をしてきたのでこの日は結構疲れていた。そのため全体的に映像がラフな感じになっていて、露出管理も甘く全体的にオーバー気味で意図せずハイキーになってしまった。それでも頑張ってそれなりの映像にはなってはいると思うので、ご視聴や拡散にご協力いただきたい。

【写真】

 ここ埼玉県川口市芝新町へはもう何度も足を運んでいる。このあたりは地域住民並みに詳しいはずだ。けれどもデモの集合場所である芝新町公園だけは来るといつも道路が封鎖されているので、そこだけ私の頭の中の地図はいまでも空白のままだ。この日も公園に続く道は埼玉県警察によって封鎖されていた。
 いつか私は芝新町公園へ行くことができるのだろうか。その公園は本当に実在しているのだろうか。

公園西側の封鎖地点


公園北東側の封鎖地点
「ヘイトスピーチ、許さない。」


公園南東側の封鎖地点
「WE AGAINST RACISM 在日クルド人への差別煽動許さない」


公園東側の封鎖地点


 15時半になると現場がにわかに騒がしくなり、機動隊が部隊を展開しフェンス前に集結していた抗議者が排除された。クルド人排斥を叫ぶ差別デモが警察を伴い街に繰り出した。

警告と書いてあるゲートフラッグを掲げる警察官と差別デモに抗議する人々

 埼玉県警察はヘイトスピーチ解消法に違反するデモ隊の行進は黙認する一方で、差別に反対し集まる抗議者を道路交通法で脅す。

道路交通法
第七十六条第4項第二号(禁止行為) 道路において、交通の妨害となるような方法で寝そべり、すわり、しやがみ、又は立ちどまつていること。

 埼玉県警察がゲートフラッグで掲げていた警告文は上に掲載した道交法76条4-2を根拠にしている。読んでわかるように止まらず移動することは禁止されてはいない。しかし道交法76条を踏まえてゆっくり歩いていても、現場では雑な運用がされているため大抵の場合は警察官によって排除されてしまう。現場を制するのは結局は力である。警察が教えてくれた。

 少し話が逸れるが、実はこの日カウンターが蕨駅前で私服警察官に警察手帳の提示を求めたところ「持っていない」という信じられないような返答があった。いろいろと思うところがあるものの、もうちょっと上手く立ち回れないのかと頭を抱えてしまった。
 警察手帳は規則で常にこれを携帯しなければならないとされている。特に私服警察官は警察の身分を表す制服を着用しておらず警察手帳は唯一の身分証明だ。よく知られているように警察手帳には提示義務があるものの、適当な言い訳や無視し続けるなどいくらでもそれを回避する方法はあるし、実際にそれがまかり通ってしまっている。そのようなことすらしない、できない警察官が埼玉県警察には存在するのだ。しかしながら、これが埼玉県警察クオリティなのである。
 職務の執行にあたり多くのことをないがしろにしているが、警察官である以上は率先して警察手帳の提示をするべきである。ましてや私服警察官がそれを持っていないと宣言してしまうのは警察そのものを揺るがす行為と言ってもいい。あらゆる可能性を考えたら警察官の身分証明はもっと積極的になされるべきだろう。


差別デモを取り囲んで警備を行う多数の警察官

 今回のヘイトデモの主催者はいつもの主催者ではなく別のヘイト常習者である。いずれにせよ、路上に現れた弱い物いじめを楽しむネトウヨに変わりはない。
 ちょうど10年前にも埼玉県川口市や蕨市で外国人排斥デモが頻発していたことがあった。当時は中国人がターゲットで、ナチスのハーケンクロイツ旗を持ち出すデモまであったほど酷い状況だった。それが今ではクルド人がヘイトのターゲットになっている。

 ネトウヨにとって差別する対象はなんだってよく、そのターゲットは都合のいい対象へと次々と移り変わっていく。基本的にヘイトデモの主張はデマがもとになっているのだが、そのデマが否定されて周知の事実となってくるとさすがにデマの主張もしずらくなり、都合のよさそうな次のターゲットを探してきて、そちらに向けてのヘイトが始まる。実際ヘイトの対象はこの15年でコロコロと変わっていて、いつの間にか中国人排斥運動ブームは去り、今ではクルド人ヘイトがトレンドというわけだ。ふざけた話である。


差別デモに抗議する市民たち
「WARABI AGAINST RACISM」
蕨駅方面へ進むデモ隊と歩道から抗議するカウンター


 かつては参加者100人以上の外国人排斥デモが毎週のように行われていたこともあったが、今では今回のデモのような参加者1桁か、せいぜい数十人規模のデモがほとんどだ。それは全国各地の路上に現れ抗議を行うカウンターの存在が大きく寄与してきた。雨の日も晴れの日も、オンラインでもオフラインでも、昼も夜も、しつこくしつこくレイシストを追いかけまわし続けてきた無数の反差別市民の存在なしに語ることはできない。


抗議者と差別デモを護る埼玉県警察機動隊
埼玉県警察による歩道封鎖
抗議者の行く手を阻む埼玉県警察
バリケードで封鎖された道路
走る埼玉県警察機動隊
埼玉県警察航空隊のヘリコプター


差別デモ参加者7名を駅まで送る埼玉県警察(道路いっぱいに広がって歩く必要はない)

 今回のデモは出発の公園に戻ってくるというコースだったため、解散したデモ参加者は帰宅するために駅まで移動する必要があった。基本的に警察はデモ行進中の警備のみを行うのだが、ヘイトデモの場合は参加者を最寄りの駅改札口まで送り届けるところまで行っている。ぞろぞろと集団で帰っていく姿は「集団下校」と嘲笑をこめてカウンターから呼ばれている。(しっくりくる言葉なのか、揶揄されている側のレイシストが使うこともある。)


レイシストの帰宅サポートをする埼玉県警察
管区機動隊に混じる所轄署の女性警察官

 デモの警備は行われる場所を管轄する地元の警察署の警備課が担い、基本的には署内の人員で警備を行う。このデモのように所轄署だけでは手に負えないような場合は警察本部が調整を行い機動隊などの応援を寄越してくれる。
 今回デモ行進が行われた区域は、埼玉県川口市の西部エリアにあるため管轄は川口警察署になる。この川口警察署の警備課員が、人数は最も少ないがメインの警備スタッフだ。見分け方としては、「機動隊腕章をつけていない警察官」という消去法が手っ取り早いが、靴を見てブーツではなく短靴(普通の革靴)を履いていることで見分けることもできる。そして応援として、黄色い腕章をした「埼玉県警察警備部機動隊」、青い腕章をした「関東管区機動隊第四大隊」が投入されていた。以上の3グループが合わさった混成部隊がデモの警備を行っていた。
 部隊配置は、前衛が管区機動隊および川口警察署女性警察官、それに続き県警機動隊の指揮官車、後衛(主力)が県警機動隊および川口警察署男性警察官、それに遊撃として管区機動隊の一部が周辺警備等にあたっていた。
 前々から蕨のデモでは警備の動きが悪いと思っていたのだが、その原因は前衛にあるのではないだろうか。部隊行動を旨とする機動隊員の隙間に指揮系統が違う一般警察官(=所轄署警備課)が配置されているので、どうしても動きが悪くなってしまうのだろう。特に女性警察官なので、いろいろと遠慮してしまうこともありそうだ。前衛にいた所轄署の女性警察官は服装の斉一は図られてはいたが、警備課員だけではなく署内他部署から応援で来ていた人もいたのかもしれない。
 女性警察官の前衛配置は、女性抗議者によるシットイン対策と見て間違いない。所轄署員を男女でわけて前方に女性のみを配置しているので意図は明らかだ。2013年9月8日の東京・新大久保で行われたヘイトデモに対して繰り返しシットインが行われた際、警視庁機動隊は道路に寝そべる女性抗議者の排除に手を焼き、数少ない女性警察官を呼んで対処してもらっていた。これを機にヘイトデモの警備に女性警察官が多く投入されるようになった。
 今回の警備が取っていた前方がスカスカで縦にやたら長く伸びているフォーメーションもシットイン対策を意識しているはずで、先回りしたカウンターを捉えて排除しやすいように考えられたものだろう。


差別デモ参加者を厳重に警護しながら駅へ送り届ける埼玉県警察
埼玉県警察機動隊メインの後衛部隊
歩道の通行人を押しのけ、差別デモ参加者の帰宅を全力サポートする埼玉県警察


混乱する蕨駅東口の階段付近

 ネトウヨは県外から電車でやってきてクルド人排斥デモという娯楽活動をして警察にお礼を言い警察からもお礼を言われて電車で帰ってゆく。警察が全力で護ってくれる埼玉県は活動するには都合く、ネトウヨが繰り返しやってくる場所になってしまった。
 家から歩いて抗議行動に参加している蕨や川口の市民の声よりもレイシストに肩入れする警察はどうかしている。地元住民の声も少しは耳を傾けてほしい。
 もう既に神奈川県の川崎市は反ヘイト条例を制定しレイシストにNOを突きつけている。埼玉県内でも行政による差別反対の流れが続くことを願っている。


レイシストを無事に送り届け戻ってきた機動隊および管区機動隊

 駅の敷地内での抗議は極力避けたほうがいいと思う。特に屋根のある部分(駅構内)で、拡声器を使ったりプラカードを掲げたりする行為は最悪逮捕される危険がある。

蕨駅に掲示されている注意書き

 蕨駅には上の写真の通り、罰則規定のある鉄道営業法を根拠とした注意書きが掲示されている。該当する条文を以下に掲載する。

鉄道営業法
第三十五条 鉄道係員ノ許諾ヲ受ケスシテ車内、停車場其ノ他鉄道地内ニ於テ旅客又ハ公衆ニ対シ寄附ヲ請ヒ、物品ノ購買ヲ求メ、物品ヲ配付シ其ノ他演説勧誘等ノ所為ヲ為シタル者ハ科料ニ処ス

 明治33年制定の古い法律のためか表記が漢字とカタカナで多少読みにくいが、鉄道地内で無許可の寄付・販売・配付、演説勧誘などの行為をした者は科料に処すとある。これは鉄道地内の秩序を保ち旅客の快適な旅行を保障するための規定で、通行の邪魔になる行為など鉄道地内の秩序を害するものと認められる行為の禁止をしている。
 とは言っても、駅など一般公衆が自由に出入りできる場所はその機能を踏まえ、表現の自由の保障を可能な限り配慮する必要があると考えられるので、抗議者の行動が即逮捕ということはまずないだろう。ただし退去要求を無視して抗議を続けたり、大きな騒ぎを起こした場合は危険度が上がりそうだ。また鉄道営業法とは別に、敷地内での行動は業務威力妨害や不法侵入に問われかねないので、注意しておいて損はないだろう。
 わざわざ危険を犯して駅の敷地内までレイシストを追い回す必要もないのではないかというのが私の立場だ。毎回120%の力でもってレイシストを追い回すより、頑張りすぎないサステナブルなカウンターができたらいいなと思っている。


 レイシストが活動を続ける限りカウンターの罵声は止むことはない。私もカメラを持ちその姿を写し続ける。

CAMERA AGAINST RACISM !!!

全国各地のデモや抗議などを自腹で記録しています。サポート頂けますと活動資金になります。よろしくお願いします。