IWATE RAINBOW MARCH 1st - 2018年9月1日(土)/岩手県盛岡市
2018年9月1日(土)、岩手県盛岡市で行なわれたプライドパレード『IWATE RAINBOW MARCH 1st』の記録
[動画+写真31枚+コースマップ]
岩手県内では初、東北地方としては青森県に続いて2県目となるプライドパレード(プライドマーチ)が盛岡市で開催された。
『IWATE RAINBOW MARCH(いわてレインボーマーチ)』は、LGBTへの差別や暴力を解消し「誰もが生きることをENJOYできる岩手」を目指すためのマーチで、スローガンに「MARCH THIS WAY(この道を進んで行く)」を掲げている。
午後2時、サウンドカー(荷台に音響機材を搭載したトラック)を先頭に160名がもりおか歴史文化館前を櫻山神社方面へ出発した。一行は大通りを通行しMOSSビルのある通りに入り菜園通りで左折、カワトク前を抜け岩手公園下交差点で車道から歩道へとあがり左折、公園ぞいに歩道を進みサンビル前で右折し鶴ヶ池にかかる橋の手前から盛岡城址公園へ入りゴールした。
コースを決める際、車椅子の人も通行しやすいようにという配慮がなされたという。そのような道を選ぶことはプラス要素しか見当たらず、誰にとってもいいのでこれがスタンダードになってくれるといいと思う。
【動画】
IWATE RAINBOW MARCH(いわてレインボーマーチ) 1st - 2018.9.1 岩手県盛岡市(11分2秒)
実はこのマーチでは岩手初のサウンドカーが出場している。過去に盛岡では街宣車や普通車を使用したサウンドデモの開催はあったものの、トラックの荷台にサウンドシステムを搭載した、いわゆる「サウンドカー」を使用したデモは岩手初である。
【写真】
「いわてレインボーマーチ」の当時の代表で現・盛岡市議会議員(※2023年8月27日に任期満了で引退予定)の加藤麻衣さんは、マーチの開催日について「9月1日という日付は、子どもたちの自殺が多い日ということで、希望を持ってもらいたいという思いを込めて設定」したとインタビューで語っている。今回のマーチ中に加藤さんは「多様性がない岩手で生きていくのに絶望を感じ自殺をしようと考えていた」とスピーチしていた。のちの盛岡市議選での選挙活動(2019年8月)や当選後の議員活動においても加藤さんは「自殺対策」について非常に力を入れている。岩手県は北海道に次いで国内2位の面積が広い自治体で、距離的な意味で人と繋がるのが難しく当事者が孤立しがちな状況があり、自殺率は全国上位に位置している。
コミュニティへの参加や人と繋がることで解消できる不安や解決できる問題もあるが、そもそも繋がれない状況なら当事者の存在の可視化がある程度の意味を持つはずだ。そんな当事者同士が繋がれない状況を打開する手段の一つが「いわてレインボーマーチ」だったと思う。地元だからこそ活動しにくい面ばかりだろうが、「まずは顔を出して表に出でられる人がやる」と自ら立ち上がり2018年2月に団体を設立し、同年9月に今回のマーチを実行している。その行動力にはただただ感服するばかりだ。
私は2011年6月から全国のデモやパレード等をずっと撮影し続けている。
その活動の中で、デモがよく行われている街は「東京へのアクセスの良さ」に関係がありそうだと気が付いた。結局のところ、運動の最前線は人が多く政治や中央官庁とも距離が近い東京都内なので、乱暴に言えば東京の行動に参加できるかどうかに強く関わっている。行こうと思えば比較的気軽に東京に行ける場所に住んでいると、実際に東京の行動に参加できるので何らかのエッセンスを持ち帰ったり地元での行動を起こすエネルギーを得ることができるというわけだ。いくら機器が発達しネットの時代になったとは言え、今でも体験は人に大きな影響を与え変化をもたらしている。
デモがよく行われている街は人口が多いのだが、行動を起こすかどうかはあくまでも個人に依拠しているので、人口が多いとそのような人が生まれる確率が高いというだけのことだ。行動を起こそうと思う人がいなければ当然なにも起こらないので、「東京へのアクセスの良い街はそのポテンシャルが高い」という書き方のほうが正確だろう。
例えば東京へ新幹線で日帰りができたり、LCCが運行されている空港が近くにあって安価に東京のデモに参加できるなど、そういうエリアはデモが比較的よく行われていたりする。
盛岡は北東北では最もデモが行われてきた街で、私も過去に何度も盛岡でデモを撮影してきた。福島原発事故の翌年2012年に東京の首相官邸前で毎週金曜日に行われていた原発に反対する抗議行動にもいち早く呼応し盛岡でも毎週金曜日にデモが行われるようになった。この金曜デモは頻度は減ってはいるが今現在も盛岡市で行われていて間もなく300回目を迎える。盛岡駅から東北新幹線はやぶさ号に乗れば東京駅まで最速2時間10分で行けてしまう。東京駅と新大阪駅を結ぶ東海道新幹線のぞみ号は最速2時間21分なので、実は盛岡のほうが東京へ速く着くことができる。
このマーチの主催者も東京レインボープライドのパレードや青森レインボーパレードに参加して様々なことを学んだという。盛岡で比較的早い時期にプライドパレードが開催されたのは、盛岡という場所にも理由があったのかもしれない。
これは蛇足であるが、東京に近ければいいというわけでもなく、東京に近いと東京でやる行動に参加できてしまうので、地元でやる必要がなく逆に東京近郊の県ではデモやパレードが少ないという逆ドーナツ化現象とでも言えそうなことが起きている。私がここで述べたことはすべてに当てはまるわけではなく一つの要素を挙げたまでだ。
前代未聞と言ったら大袈裟だが、初めて見たということも「いわてレインボーマーチ」にはあった。それはフライヤーに書かれていた以下の文言だ。
一般の屋外イベントではあることだが、予備日を設けているデモやパレードは聞いたことがなかったし、このマーチ以外では出会っていない。
気になったので当日スタッフの方に聞いたところ、ちゃんと二日間会場等を押さえていて、確実に晴れだと分かった時点でキャンセルできるものはすべてキャンセルして費用を最小限に抑えたとのことだった。なにがなんでもプライドパレードを岩手で開催してやるぞという気概を感じた。
本当にすべてにおいて全力を出し切って取り組んでいた「いわてレインボーマーチ」には驚くばかりであった。