ざわざわガール
「ざわざわさせるものを、求めているの」
心から、と彼女は声を潜めて付け足した。
どういうこと?と僕が目で尋ねると、
「あのね。音楽でも、歌でも、味でも、服でも、においでもいいの。なんか、私をざわざわさせてほしいの。で、すーっとしたい」
と、彼女はため息をついた。
「たとえばさ、車の塗装した所に、すーっと傷がついて消えないみたいに。撫でると、そこにいつまでも傷が残っていて、だんだん錆びていくような傷。」
タトゥーみたいな感じかな。いたそう。
「怖いとか痛いんじゃなくてね、ざわざわっとした気分になりたいんだよね。こう言うと、気味悪がられて、あんまりわかってもらえないんだけど」
苦笑しながら、彼女は僕を撫でる。
耳のつけね、顎の下、眉間、いいところをやさしく撫でてくれるから、僕は安心して身を任せる。思わず、のどがごろごろ鳴ってしまう。だれにだって身を任せるわけじゃない。
「ざわざわするときは、ちょっとだけ気持ちが楽になる気がするんだぁ。」
彼女は遠くをみるように目を細める。
それから、落ちてきた髪を耳にかけ直した。
「さ、休憩終わり。また遊んでね」
彼女はエプロンをぱん!とはたくと、暗い道を戻って行った。
んー、行っちゃうのか。
またね、ざわざわガール。
いつでも話をしにおいで。
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