一変した世界で生きる宿泊業経営者の絶望と希望。(前編)
絶望と、そして希望。
-目次-
1、この記事をなぜ書こうと思ったか
2、危機に直面するまで
3、はじめにやったことは現状の把握
4、資金繰り対策
5、現在の運営店舗の状況とこれから
6、後編の記事について
1、この記事をなぜ書こうと思ったか
プルルルル、プルルルル
「はい。ゲストハウスyuyuです。」
「3月に予約していたものなんですが、コロナウィルスが心配なのでキャンセルさせていただきたいのですが。。」
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緊急事態宣言を機に、3月のほとんどの予約がキャンセルになり、新規の予約はパタッと入らなくなりました。
現在札幌市内と小樽市内で合計6店舗のゲストハウスと小規模ホテルを運営しています。
弊社の宿泊施設のいくつかは休業し、残りの店舗に関してもほとんど稼働しない日々が続いています。
2014年1号店ゲストハウスwaya開業から、6年が経ちました。
創業以来、世界各国から宿泊者が毎日のように集い、笑顔で溢れていたこれらの空間が、まるで幻だったかのように思えるほど、今は閑散としています。
新型コロナウイルスによって訪れたこの現状を打破すべく、この3ヶ月様々な取り組みを行ってきました。
できる限り赤裸々に、その全てをお伝えし、今同じように厳しい状況に立たされている方に少しでも参考になればという気持ちでこの文章を書いていきます。
*1号店開業前の写真。すべての人がただいまと言える居場所をつくるという想いを持ってゲストハウスを開業しました。
2、危機に直面するまで
はじめに、簡潔に北海道の今までの流れをお伝えします。
北海道道内で1月28日に第1例目の感染者が確認された後、全道の広い地域で感染者が確認されました。その一ヶ月後の2月28日に緊急事態宣言が発表されました。
*より詳しく流れを確認したい方はこちらを参照ください。
宿泊施設の視点に立ってお話します。
1月28日の後、キャンセルの連絡が少しずつ入るようになりました。
「中国人は宿泊していますか?」という問い合わせも多数ありました。(気持ちはわかるのですが、その問い合わせには個人的には歯痒い思いを抱きました。)
そして、徐々に予約のキャンセルが減っていく中、先ほどお伝えしたとおり、2月28日の緊急事態宣言があり、それを境にほぼ全てと言っていいほどの予約がキャンセルとなりました。
宿泊業が収益の大半を占めている中、3月以降の予約をほぼ全て失い、御先真っ暗という状態に。
創業以来最大の危機を迎えました。(今も迎えています。)
3、はじめにやったことは現状の把握
皆さんご承知の通り、新型コロナウイルスに関して、連日様々な角度で報道がされていました。
特に、全国規模の緊急事態宣言が発表されるかどうか、そうなった場合の政府からの援助はどのようなものになるのか。まずは今どのような状態なのか、そして短期的にどのようなことが起こるのかを注視していました。
連日チェックイン0件、今後の予約もほとんどないという今までに経験したことのない絶望的な状態でしたが、今できることは何かを、3人で話し合うことからスタートしました。
①そもそもこの状態で宿を開け続けるかどうか?
②予約ゼロの状態、かつ安全面を考慮して、今いる社員の勤務をどうするか?
③前年度の損益計算書を再度分析し、支出の部分で削減できるポイントはないか?
④いつまでこの状況が続くかわからない中、どう今後の見通しを考えるべきか?
前年度損益計算書の実績ベースで、可能な限り支出を抑える方法を3人で思いつく限り出しました。
①直営店舗のwaya、waya annexをゲストハウス形態では閉館をし、基本的には一棟貸切で貸し出す
②雇用調整助成金を活用しながら、社員には休業してもらう*1
③既存の借入の、返済調整は可能かどうかを模索する
④各店舗で現状でかける必要のない経費を削減する
その上で、最悪のケースを想定して、「いつ」「どのくらいの金額」が足りなくなるのか、資金繰り表を何度も何度も見直し、今後のキャッシュフローを良い・普通・最悪の3パターンで考えていきました。
*1 雇用調整助成金について
2名の社員に休業してもらいました。(現在も休業中。)
しかしながら、彼らにも生活があることと、雇用調整助成金を活用できることがわかったことから、通常支払額の100%を支給しながら、休業してもらいました。理解してくれた二人には感謝です。
現状と今後の見通し3パターンを把握した上で、3月9日に社員含めたすべてのメンバーで全体ミーティングを行いました。
全体ミーティングでは、以下のことを伝えました。
・会社の数字面での現状
・売上減少分は融資で運転資金を調達すること
・休業をしてもらうこと(100%給与は保証)
・今後はどうなるかまだ不明ということ
・店舗をより良くするアイデアをそれぞれ考えて欲しいということ
数字面もオープンにし、置かれている状況を理解してもらった上で、すぐ会社が潰れることや解雇はないと伝え、安心して日々を過ごしてもらうことが重要なことでした。
*数字面で前年度の数字分析、来期の見込み3パターン、融資を受ける際のプロセスをまとめた資料。3月上旬に今置かれている状況を数字ベースで分析しました。
4、資金繰り対策
できる限り支出を抑える対策を実行しながら、同時に銀行からの融資(運転資金)に動き始めました。
動き始めたのは、2月上旬でした。その時はまだ、緊急事態宣言も発表されてなく、また政府からの融資条件の緩和や給付金などの話は全くない段階です。
「コロナウイルスの影響もあり、今後耐え抜くための運転資金を借入したいのですが...」
正直なところ、2月上旬段階では、GW前までには収束するのでは...という希望的観測を持っていました。
融資の相談を進めながら、世の中の状況も大きく変化していきました。
「これは、思った以上に長い期間厳しい状況が続くことを前提にしないといけないかもしれない...」
そんな話を3人の中でするようになっていった時期でもあります。
数日で状況が大きく変化していく中で、いつの段階の情報で判断をすべきか悩みながら、最終的には3月の中旬には融資契約を結びました。
そこから3月いっぱいは、現状できることをしながら、今後どうなるかを情報収集していく、という日々を過ごしていきます。
少しずつ、給付金の話や融資の条件緩和など、政府としての対策が出てきていたので、毎日経産省のページをチェックし、3人それぞれが得た情報を共有していきました。
4月上旬には日本政策金融公庫から追加の借入(運転資金)をし、約半年間分の運転資金を確保しました。
今も悩むところでもあるのですが、融資はもらえるお金ではないので、当然借りれば借りた分だけ返さなければいけない金額も大きくなります。コロナが収束した後に、売上が戻ってくる保証はありません。
現状だと、借入のハードルは比較的下がっていますが、今後の事業回復・修正をどこまでできるのかをできる限り考えながら、いくらまで借りるのかはとても悩むところです。
借入以外にも会社として実施した対策は、以下の通りです。
①役員報酬減額
②社会保険猶予申請
③借入元金返済停止*一部
④消費税猶予申請
⑤労働保険料と源泉所得税の猶予申請(検討中)
どのような対策がベストかは分かりませんし、ビジネス的には「これ以上の損をする前に退く」という損切の考え方もあります。
しかし、僕らとしては、事業を継続し、会社として更に成長していく、強くなるぞ!という気持ちで、この危機を乗り越えていきたいと考えています。
5、現在の運営店舗の状況とこれから
それぞれの宿泊施設に関してもお伝えします。
現在Guest house waya、waya Annex、そしてOtaru Tap Roomは休業しております。
Guest house yuyuとThe Apartment HotelsのYAMAとKOUは営業してはおりますが、ほぼゲストがいないので、開店休業状態です。
しかしながら、Guest House wayaとWaya Annexに関しては、4月よりそれぞれの宿に一組ずつ宿泊してくださっています。
以下は、それぞれの貸切の連絡をいただけるに繋がった、河嶋のFBポスト内容です。
Annex貸切提供に関するFBポスト内容
waya貸切提供に関するFBポスト内容
wayaは人が集まることで価値を生み出しておりましたが、現在人が集まることを推奨できない状況なので、しばらくは一棟貸しで借りてくださる方を探していきます。
また一部店舗に関しては、オーナー様から運営を任されている店舗もあるため、現状をこまめに共有しながら今後どのように適応していくかを考えています。
今、考えるべきことは「新型コロナウイルスが収束した後、観光はどうなるのか?」だと思います。観光のみならず、どの業界でも考えられているトピックだと思います。
今後の宿泊事業の展開として考えていることは、
短期的視点:コロナウイルスの治療薬が見つかり収束するまでの期間
既存の施設を基本的には一棟貸切、もしくは部屋単位でのウィークリー・マンスリーに対応していき、現状ある需要形態に変化させていくことです。またオンライン宿泊などの、オンラインでの仕掛けも様々行っています。
中期的視点:コロナウイルスの治療薬が見つかり収束した後
例え、コロナ禍がおさまったとしても、どうしても「三密」は避けながら観光していく時代になるのではないかと考えています。
その上で、ほぼ全ての施設を一棟貸切、もしくは部屋単位でのウィークリー・マンスリーに対応できるように、設備工事や内装工事を行い、リブランディングしていくことです。
またタブレット導入による遠隔からのチェックイン、スタッフのリモートワークを駆使しながら、小規模ホテル、ゲストハウスの醍醐味である、心理的に距離の近いアットホームな接客を行っていく取り組みなど。
(続きは、後編で触れたいと思います。)
今後どうしていくのが良いのかという正解はないので、日々アイデアを出し合いながら考えている最中です。
旅を楽しめる世界にいち早く戻って欲しいと、心から願うばかりです。
6、後編の記事について
コロナショックは、創業以来の危機です。「まさか」の事態です。
しかし、危機だからこそ問われているのは、「これからどう生きていくのか」、そして「自分たちはどうありたいのか」だと思います。
後編では、今後Staylinkという会社を、どのように守り、どのように変化し、何をチャレンジしていくのかを決意も込めて、書いていきたいと思います。
文章:合同会社Staylink創業メンバー 河嶋、木村、柴田