私の母は元美容師なので、子供の頃から髪はいつも母に切って貰っていて、初めて美容院てカットをしたのは、高校の卒業式直前のことだった。
 高校生になった頃だったか、「今時のヘアスタイルにしたかったら美容院に行ってね。最新のカットは勉強していなくてわからないから。」と言われていたから。

 母は父と結婚して”嫁”に来てから、美容院勤めをやめて、職人である父の仕事を手伝っていた。

 母は当時美容師の仕事を続けたかったのだろうか?

 舅、姑のいる家に嫁いできた母は、朝から晩まで休む間もなく働いていて、お盆だろがお正月だろうがのんびり座っているところを私は見たことがなかった。それに、姑・小姑に嫌なことを陰でも表でも言われているのを見聞きしたこともある。

 ”嫁”なんだからのんびりゆっくりなんて許されない。”嫁”なんだからその家の都合に従うべき。書いていて吐き気がするけど、それを当たり前としてみんな生きていたんだよね。
 
あの頃の母は、自分の人生をどんな風に思っていたのだろう。 

 もし、母が美容師の仕事を続けていたら、今頃どうなっていただろうと思うことがある。早くに父が亡くなって以来、今は落ち着いているものの、不眠症、うつ病を患っている母。もし彼女に別の人生があったのなら…時代が違ったなら…もし…

 そして私も繰り返す。あの時、別の選択をしていたなら…せめてあと10年だけでも遅く生まれていたら…

 でも、諦めたくはないな、と思う。
 まだ私は生きていて、話す言葉も歩ける足も持っているから、この道の隣にあるはずの別の私の人生を選ぶことができる。
 もちろん母も、望めば選べるはず。

 機会があったら聞いてみようかな。美容師の仕事を続けたいと思わなかった?あの時、どんなことを感じていたの?

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