父は、私が大学3年生の時に他界した。
 
 それは突然のことだった。私が病院に駆けつけた時には、すでに父は呼吸器をつけられ麻酔で眠っていた。あまりに想定外のことだったからか、おば達にお父さんに言葉をかけてあげてと言われても、一言「お父さん」呼ぶことさえできなかった。自分が見ている光景が現実ではないような、私だけ別の世界からひょいとそこに入れられたような、感じたことのない感覚だった。それから2日と経たずに父は亡くなった。私は父と一言も会話することができないまま最期を見送った。

 そこからは怒涛の日々だったけれど、私の頭の中は冷静で、とにかく一番大変なのは母親だから、私は落ち着いてやれることをやらなければと考えていて、葬儀の間もその後もあまり泣かなかった。泣けなかった。
 結婚してからは、辛いとき「父がいたなら」とその不在に涙することがあったけれど、30年近くなった去年のある日、これまでとは全く違う父に対する感情で号泣してしまった。

 人生で一番傷ついたあの時から、自分で自分を許して、認めて、愛して、どうにか私のセーフゾーンを築いて立ち直ってきた時に見た、あるタロットカードのリーディング動画で、『亡くなったあなたの近い肉親があなたの事を愛して守っているから大丈夫と伝えたいと言っている』という言葉を聞いて、すぐに父の事が思い浮かんだ。そういえば私、父親のことは全く一切の疑いなく信用していたな…と思ったその瞬間、それはつまり父が私の存在を無条件に許し認め愛してくれていたからだと気づいて、そこから涙が溢れて止まらなくなってしまった。
 どうして死んでしまったの?まだやりたいこともあっただろうに…もし父が生きていてれたら…そう思って泣くことはあったけれど、こんな風に“もういない“父からの愛情を感じて泣くとは思ってもみなかった。
 生きている人や、目に見えるものだけではない。受け取れると思えば、愛とか安心感とか暖かさとか感じられるものなのね。私はちゃんと愛されていたんだ。
 もしかしたら父はそういうことを私たちに知らせるために早くに亡くなったのかもしれない。そこに当たり前にあると見えなくなる。失うと見えてくるもの。父の死の意味。

 お父さんが信じて守ってくれているから、私は大丈夫。でも、私は生きている間に息子にたくさん伝えることにするよ。いつもいつまでも、私はあなたの一番の味方だから大丈夫と。


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