天號星(2023 10 新宿・東急歌舞伎町タワーTheater MILANO座)
端的に言うと、「中島かずきさん天才だな?」と思いました。いやあ、凄かった。「観たい」ものを完璧に魅せてくれて、しかも破綻が無い。
劇団のお約束系で行けば、何といっても古田新太兄さんのおとぼけと冷酷の二面。野獣郎でも髑髏城でもお馴染みの、愛嬌と包容力/冷徹で残虐、の凄まじい切り替え。カナコちゃん右近さんの圧倒的前座力はじっくり後述するとして、「純情オセロ」で存分に女の業を演じ切った聖子さんは、今回は枯れた愛嬌での狂言回し。手練れの聖子さんが回すから、まあもう心地よく話が回る回る。
股広げない下品じゃない村木よし子姐さんの華麗で盤石なカッコいい姐御っぷりに、これまた泣けるほど盤石に卑怯なサンボさん。ポジションとしては似たような悪役でも、「オセロ」や「薔薇サム」の絶妙な小物感とは一味違う、どこか概念的な「必殺シリーズのターゲット」っぷりがたまらない粟根さんに、ものすごく理詰めでキャラクターを考察構築デザインしてらっしゃるのにいざ表出するとなるとああなっちゃう素敵な素敵な成志先輩。この、正にティピカルな「お主もワルよのう」「いえいえお代官様ほどでは」な二人に程よく絡むメタルさん、ある意味ひとくくりで「時代劇の長屋の住人」なのに一瞬でキャラと背景が立ってくる逆木さんエマちゃんいっそんさんインディさん、仁さんの「良いも悪いも市井の人」っぷりもいつもながら安定。独特の浮遊感が無くてはならないさとみちゃんに、いつの間にやら大変恰幅よくなられたのに相変わらずキレッキレかつ「声が!いい!」川原くん。もう、片っ端から「そうそうそうそう!これじゃなきゃ!」なキャラクターがどんどん出て来るのに、どういう訳か「待ってました!」でこそあれマンネリ感は感じないのが不思議でもあり、いのうえひでのり氏の凄まじい才でもあり。
劇団って、団員が歳を重ねることで演じられるキャラクターが変化してしまうこともあるだろうし、さりとて新陳代謝を目指して若手を入団させればいたずらに人数が増えて相対的に個々の出番や見せ場が減るだろうし……で、結局は途中で空中分解してしまうことが多いのでは。
ところが、新感線に限っては、(巧い具合に客演を入れてるというのもあるでしょうが)何故か力業でその辺のネガティブ要素をねじ伏せて、ズンドコズンドコ突き進んでいる感があります。一時期は座長自ら「偉大なるマンネリ」などと仰っていたようですが、いやいや、ものすごい勢いで前に進んでますとも、それがあまりにも真っ直ぐに同じ道なだけで。
世話物+大衆演劇+初期の必殺シリーズに、荒唐無稽なれど骨太な物語性。そして、どんな劇場あてがったって完璧に使いこなしてみせる演出の凄腕(いやもう本当に、プレハブ赤坂ACTから地の果てIHI回転劇場、折角演舞場挟んだって、またしても「学生が卒論でネットアンケ取ったら、ものすごい得票数で堂々の『最悪劇場』第一位に輝いてしまった」ブリリアに取り組まされて、とどめの「悪評地獄東急歌舞伎町タワーの『最新の癖にトイレは少ないわ退出動線があまりに貧弱で規制退場かけないと事故まっしぐらだわ』なミラノ座の杮落し公演を任されるという、傍から見たらどう考えても不運の塊みたいな演出家なんですけどね、いのうえさん。それをあそこまで使いこなしちゃうんだから、実際ひきもきらずオファーある訳ですよね……)。「こんなに長い事(解散もせずに)やってる劇団あんまり無いよなあ」とは、呆れ半分自慢半分で古田新太さんが折に触れ口にすることばですが。この調子ならまだまだドンドン行ってくれそうな嬉しい予感がする今回の『天號星』、総括でも大団円でもないところがまた魅力的でした。
お話は、「雷で中身が入れ替わってしまった若い人斬りとぼんやり中年が、それぞれに抱えた宿縁を絡ませ合いつつサバイブしていく」という展開。どうやら「天號」ということばそのものには元来意味は無いらしく、そうなるとアレですか、入れ替わりネタの一番星こと「転校生」に引っかけたのでは?(テンゴウセイ:テンコウセイ!)と突っ込みたくもなろうというもの。中島さんがパンフで詳細語っておられますが、人名や筋立ての芯は「ダークな頃の『必殺』シリーズ」へのオマージュだそうです。九曜や日食月食と絡めた考察もネット上にはいくつかあるようで、どれも読みごたえがあるので良ければお探しください。
何が凄いって、「本人同士の入れ替わり」はそうそうちょいちょいある訳ではない(雷に打たれるまでは本人:雷に打たれて入れ替わり→みさきが意識を失って元に戻る→みさき復活でまたしても入れ替わり、の計3回4ターン)んですが、それを「判ってる」人と「判っていない」人とが周囲でしっちゃかめっちゃかに動く訳。「知ってて銀次/半兵衛を倒したい」人と「知らずに銀次/半兵衛を狙う」人とがごっちゃになっていて、どちらかと言えばそっちの方が複雑怪奇。そしてまた、本来複雑な筈のこのシチュエーションを、脚本と演出がびっくりするほど鮮やかに捌き切るんですよ。その上で、「観たい!観てみたい!」を数珠つなぎに繋いでいく訳。例えば、
「強くてクールな早乙女太一の殺陣」からの
「ヨワヨワで情けない(!)早乙女太一」
「早乙女兄弟の立ち回り:圧倒的に兄がへっぴり腰で弱い(!)」
からの
「強くてクールな古田新太の殺陣」
「川原くんと太一くんのガチ勝負」
「古田と太一の共闘」
からの
「早乙女兄弟ガチ対決」~「古田VS太一」、ああてんこ盛り。そこに、武術太極拳世界王者山本千尋嬢の凄まじい体術も存分に加わって、こうして列挙してみると、「よく正味3時間の中にこれだけのコンテンツと話の筋を押し込んだな?」と改めて愕然とします。また、このすべてが必然になるようにちゃーんと筋が流れていくんだもの……やっぱり中島かずきさん天才だわ……。
さて、ここまで敢えて残した客演組。
何よりびっくりしたのは、早乙女太一くんが壮絶に上手くなってること!申し訳ないのですが、私はそこまで彼一筋のファンでは無いので、理解と認識にはどうしたって抜けと穴がある。ある意味メディアの玩具にされて、レゾンデートル迷子気味の中もがいてた頃の彼のイメージが強い訳で、フィジカル的には類まれなる天与の才がありながら勿体ないよなあ……などと思っていたんですが。
うわあ、ごめんなさい。そのフィジカルで圧し切るという荒業で、おっさんと狂気の人斬りの二役、やり遂げてました。重心が全然違うから、誰が見てもしっかり見分けがつく。「元々強い銀次」から「めちゃくちゃ弱腰の銀半兵衛」に代わるところもそうなんですが、この銀半兵衛、同じく人斬りである朝吉(早乙女弟・友貴くんは元々なんつうか『末っ子小器用』の典型みたいなとこあるよね)とやり合うために、何故か朝吉の薫陶(?)受けてそこそこ強くなる、というややこしい事態に発展する訳で。だから、最後の「古田新太VS早乙女太一」というお楽しみは、「生来は弱腰へっぴり腰の半兵衛が銀次の身体能力を得て強くなった」銀次のガワ、で出て行かなきゃならない訳ですよ。ああややこしい。文字にするとややこしいのに、早乙女太一の肉体と演技とを通すとものすごくシンプルに判っちゃう。凄い。ラストシーンの背中、「ああ、新感線の客演主役の風格……!」としみじみいたしました。御用提灯十重二十重(これまた嬉しいお約束)の中を斬りぬけていく主人公!じーん。
乃木坂46からやってきた久保史緒里さん。登場シーンが損だったなあ……というのも、この上ないプロフェッショナル右近健一山本カナコのご両名が、ものの見事に盛り上げて盛り上げて盛り上げるんですよ、まずは。
「はいはいはいあったまって行きますよゥ!皆さんお待ちかねのご本尊がやってきますよゥ!崇めなさいよ!讃えなさいよ!」
前座、というとなんだかネガティブな響きがありますけど、いやいやこのお二人の歌唱は間違いなく「素晴らしい前座のプロ」。ここは何処なのか、何が起こっているのか、ここで一体何を待ち構えているのかという情報をズドーンズドーンと容赦なく打ち込んだ上で、「さあ!」とセンターを空ける。で、そこに収まるのは、いつもなら聖子さんとか古田兄やんとか、何なら天海祐希だったりする訳ですよ。
甘く可愛いアイドル歌唱は、多分右近さんのオーダーだったと思うんですが(何せ、『長屋のスーパーアイドル』という設定なので)。いかんせん、普段天海祐希をお迎えするテイでやってる右近カナコの額縁から飛び出すには、残念ながら少々可愛らし過ぎたか……と。
ところが、お芝居の方は、これがなんとも魅力的。父親の後妻に「あの人の娘ならアタシにだって娘」と目尻下げさせたり、いつのまにかややこしい関係の義姉(?)と仲良くなってたり、四方八方篭絡しまくる愛らしさに説得力がある。所作にもせりふ回しにも覚束なさが無く、初々しさと堂々たるヒロインっぷりが共存した、いい存在感でした。
存在感と言えば、山本千尋ちゃんが新感線初参加と知って眉間に皺寄せてる私です。え?嘘?いくつか出てたでしょ???帰宅して、「鎌倉殿の13人」にハマりにハマっていた家人に「トウちゃんって新感線に出た事が無いんだって」と申しましたら、「エッ?いや、新感線からの三谷大河抜擢じゃないの?」とやっぱり驚いておりました。絶対出てたでしょって(笑)。 ただ身体能力が高いだけでなく、「魅せる」川原振付を得て、素晴らしい闘いっぷりでした。正に華麗。
新感線、「コンスタントに『あー!楽しい!楽しかった!』っていうお芝居を打ち続けて長命を保ってる奇跡の劇団だと思うのですが、ただもう本当に!本当に!間違いなく「選べる立場」なんだから劇場は選んで!なんでこう地雷原に自らぶっこんでって無事に生還して「あーここはそこそこ安全なんだなー」っていう間違った感覚を劇場運営側に与えてしまうのか……ホント、そこだけ!そこだけだから!
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