台本「たとえばの話」
動きもつけた演技で10〜15分くらいの内容です。
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チャイムの音。ミサトとシンジは椅子に座り直す。
ミサト「ねえねえシンジ。たとえばの話、もしも明日世界が滅ぶなら、どうする?」
シンジ「唐突だな」
ミサト「どうする?」
シンジ「う〜ん……そうだな、家族と過ごす……かな。あとは好きなことに金を使い果たすとか」
ミサト「え、なにそれ。つまんないくらいに普通」
シンジ「ほっとけ」
ミサト「そもそも好きなことって何?シンジの好きなことって……勉強?」
シンジ「いや、本とかゲームとか好きだけど」
ミサト「ああ、なんだ。やっぱり普通だった」
シンジ「うるさいな……そういうミサトはどうなんだよ」
ミサト「そうだなぁ……。私は……うん。想像がつかないような大罪を犯してみたり……地球防衛軍になるかな!」
ミサトが勢いよく立ち上がる。
シンジ「極端だな。というか、そもそも大罪とかって何するの?」
ミサト「え?えーと……モナリザ盗むとか……?偉い人の暗殺とか……?」
シンジ「誰でも想像できそうだけど」
ミサト「ううん……じゃあ……」
ミサト「わかんないけど!とにかくやるの!」
シンジ「ええ……そんな考えなしで出来ることじゃないと思うけど……」
ミサト「いいの!」
シンジ「じゃあ、地球防衛軍は?」
ミサト「落ちてくる隕石を壊して世界が滅ぶのを阻止する!」
シンジ「ふーん」
ミサト「何?」
シンジ「世界が滅ぶ理由が隕石じゃなかったらできないし、一日でできることでもないし、ミサト一人でだけでできることでもないな」
ミサト「そういう現実的なこと言われるなら聞かなきゃ良かった……」
ミサトがゆっくりと座る。
ミサト「うん……話を変えよう。たとえばの話、もしも宝くじ十億円当たったらどうする?」
シンジ「まあ……大きめの買い物するかな。家買ったり車買ったり。あと貯蓄」
ミサト「なんでそう真面目なのかな……」
シンジ「そういう人なんだよ」
ミサト「たとえばの話だし、もう少しはっちゃけてもいいと思うんだよね。ほら……えーと……札束に埋もれる〜とか……プールにプリン作る〜とか」
シンジ「小学生みたいな考えだな」
ミサト「そのほうが楽しそうでしょ! まったく……これだからシンジは……」
シンジ「なんで俺はディスられてるの?」
ミサト「それはもう……自業自得だよ。人に冷たいから」
シンジ「温かいほうだと思うんだけどな」
ミサト「そう思うなら十億円、もう少しおもしろい使い方しよう?」
シンジ「じゃあ、海外旅行に行くかな」
ミサト「なんの面白味もない……」
シンジ「そんなことないと思うけど、ほらハワイとか……」
ミサト「知ってる? ハワイって結構、というかかなり普通だよ!」
シンジ「ええ……じゃあ、アメリカ……」
ミサト「はあ……まったく……じゃあ次の話するよ! たとえばの話、もしも……えーと……」
シンジ「アメリカもダメなのか」
ミサトがしばらく考えこむ。
シンジ「思いつかないなら終わりでいいよ?」
シンジがノートを開こうとする。
ミサト「待って待って! 思いついた!」
シンジ「はいはい……」
ミサト「たとえばの話、もしも生まれ変わるなら何がいい? 私はね、人間! お金持ちか石油王になりたい!」
シンジ「おお、ミサトにしては真面目な答えだな」
ミサト「私にしてはって……私はいつも大真面目だよ!」
シンジ「で、なんで?」
ミサト「うーんと……おいしいもの食べれそうだし、大きいお家住めそうだし、プールにプリン作れそうだし」
シンジ「なんだ。いつも通り子どもっぽい答えだったのか」
ミサト「いつも通りって何!?」
ミサト「まあいいや。それで?何になりたいの?」
シンジ「まあ、俺は猫かな」
ミサト「へ〜なんで?」
シンジ「ずっと寝てられるし、話を聞いてても聞いてなくてもこんなにうるさくされないだろうし」
ミサト「なんていうか……人の心がないよね……」
シンジ「え? なにが?」
ミサト「人の心がないよねって」
シンジ「まあ、猫だしそりゃあ人の心はないだろ」
ミサト「誰も猫の話はしてないよ!」
シンジ「え、ごめん……」
ミサト「というか、飼い主が私だったらどうするの!?」
シンジ「どうするって?」
ミサト「私は猫にも話しかけるし、聞いてないのを察知できるよ!」
シンジ「脱走するかな」
シンジ「というか、俺がなりたいのは野良猫なんだけど……」
ミサト「野良は……自分で餌を探すし、自分で自分の身を守らなきゃいけないよ……?」
シンジ「ミサトに飼われるくらいなら俺は野良の道を選ぶよ」
ミサト「昔のシンジはそんなんじゃなかった!」
シンジ「そうだっけ?」
ミサト「そうだった!」
シンジ「覚えてないな」
ミサト「もっとね、お兄ちゃんって感じだった!」
シンジ「例えば?」
ミサト「転んだときはおんぶしてくれたし、あとは……もっとちゃんと話聞いてくれた!」
シンジ「そうだったかなあ……。まあ、ミサトがこうなったのは昔の俺が甘やかしたからなのか」
ミサト「そうだったよ! うん、シンジが甘やかしたからで〜す! 私は昔のシンジみたいなお兄ちゃん欲しかったな!」
シンジ「俺はこんな妹欲しくないな」
ミサト「ひ、ひどい。」
シンジ「そんなに言うなら過去の俺にでも会いに行けば?」
ミサト「ええ〜でもさ、もしも会えるなら、未来のシンジに会いたいかな!」
シンジ「へぇ、なんで?」
ミサト「なんでって……もしかしたらさ、会えないかもしれないじゃん。私が先に死んじゃうとかさ!」
シンジ「俺が先に死んでた場合は考えないのか…?」
ミサト「シンジは長生きするよ! 私が保証する!」
シンジ「ミサトに保証されても」
ミサト「シンジが有名人になってるかもしれないし!」
シンジ「……」
ミサト「あ、私が有名人になってるかも!」
シンジ「もうこの話終わりでいい?」
ミサト「まだ時間あるんだしいいじゃん!」
シンジ「そろそろ次の時間の予習したいんだけど……」
ミサト「えーとえーとたとえばの話……」
シンジ「続けるのかよ……」
ミサト「たとえばの話、もしも魔法が使えたら、どうする?」
シンジ「えーと……とりあえず目の前の人を黙らせるかな」
ミサト「ほら!やっぱり人の心がない!」
シンジ「まあ、落ち着けよ」
ミサト「私だったらね……時間を止めて、ずっ〜と! みんなと一緒にいるんだ! ママとパパと友達ともちろんシンジも!」
シンジ「俺もか……永遠にこの話に付き合わされると思うと頭痛が」
ミサト「流石にこの話を永遠にはしないよ〜」
シンジ「ミサトならしかねない。昔から何一つ変わってないからな」
ミサト「まあ、私だもん! 永遠に私だよ!」
シンジ「永遠にこのままって不安しかないぞ」
ミサト「ははっまたまたぁ〜」
シンジ「今も休み時間を使い果たす勢いで同じような話をずっとされてるしな」
ミサト「え!」
シンジ「そろそろこの話終わりにしない?」
ミサト「待って待って! 次の話思いついたから! 最後最後!」
シンジ「わかった。最後だからな」
ミサト「たとえばの話」
間を置く。
ミサト「もしも私が不治の病でもうすぐ死ぬとしたら、どうする?」
シンジ「……難しい質問だな」
ミサト「あっしてあげたいことが多すぎて!? 私もシンジにしてあげたいこといっぱいあるよ! 例えばね〜」
シンジ「いや……逆にないんだよ」
ミサト「盛大なお別れ会開いたりとか〜。あ、でも私、やっぱりシンジには生きてて欲しいからな〜ってえ!? 無いの!?」
シンジ「盛り上がってるところ悪いけど、残念ながら」
ミサト「な、泣いてくれたりは?」
シンジ「え、別にしないけど……」
ミサト「えぇ……それが十六年間を共に過ごしてきた幼馴染への言葉……?」
ミサトが泣き真似する。
シンジ「わかったわかった……ラーメンでも奢るよ」
ミサト「ほんと!? じゃあ私とんこつラーメンがいい!」
シンジ「泣いてないのかよ」
ミサト「しょうゆラーメンでもいいよ!」
シンジ「まさか今日奢ってもらう気でいる?」
ミサト「うん! ちょうど食べたいし!」
シンジ「たとえばの話はどこに行ったんだよ……」
ミサト「なんだ、奢ってくれないのか〜」
シンジ「ほんとの話だったら奢るよ」
シンジが立つ。
シンジ「次の日、ミサトは体調不良を理由に欠席した。その次の日もそのまた次の日も。一週間後、ミサトは死んだ」
ミサト去る。
シンジ「もう一年も前に余命宣告をされていたらしい。あれはたとえばの話でも、もしもの話でもなく、本当の話だった」
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私が文化祭の部活の出し物のために初めて書いた台本で、少しその頃よりも変えてありますが、思い入れのあるものです。
当時、「ミサトとシンジってことはエヴァ?」と同級生に聞かれましたが、今もまだエヴァは未履修です。関係はありません。