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サイン−たった1分で読める1分小説−

「なんだ、おまえ漫画なんか描いてんのか。見せろよ」
 竜太が、新一の漫画原稿を奪い取った。

「上手いじゃねえか。プロの漫画家になったらよ、俺にサインくれよ」
「もっ、もちろん」
 新一が顔を輝かせると、竜太はおもむろに原稿を破いた。
「なれるわけねえだろ、バーカ」
 竜太がゲタゲタと笑って立ち去り、新一は悔し涙を流した。

「久しぶりだね、竜太君。高校生以来かな」
 貫禄たっぷりの新一の笑顔に、「そうだな……」と竜太は気圧された。

 あれから十年の月日が経ち、新一は漫画家として大成功した。世界中の人間が、新一の漫画を愛読している。
 一方竜太は荒れた生活を送り、借金だらけだ。

「よかったらさ、サインくれないか? ほらっ、高校の時に約束しただろ」
 新一のサインは高値で売れる。誰かにそう聞いたのだ。

「そうだったね。特別なサインを書いてあげる。売ると、三百万円ぐらいにはなるかな」
「バカだな。売るわけないだろ」
「というか売りたくても売れないけどね」

 すると背後から屈強な黒服の男達が、竜太の腕をつかんだ。
「おい、なんだよ!?」
「いつも君にはいじめられてたからね。いつか君がサインをもらいに来る日のために、練習してきたんだ」

 いつの間にか、新一の手には機械があった。たしかタトゥーを彫るための機械だ。
「まさか……」

 新一が、不気味に口端をつり上げた。
「そう、サインを彫ってあげるよ。

 君のおでこにね……」


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浜口倫太郎 作家
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