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agehachou50
演技力−たった1分で読める1分小説−
「クソッタレ! あんな演技力でよく主役だと偉そうにしてられんな」
桧山は吐き捨てた。
桧山は俳優で、今日は田舎の村にドラマの撮影にきていた。桧山の演技力は高いのだが、容姿と性格に難があって、中々役者として芽が出なかった。
休憩時間に村をぶらついていると、葬式をやっていた。この村の村長が亡くなったようだ。
「俺の演技力を見せてやる」
いたずら心と日頃の鬱憤を晴らすため、桧山は葬式に参列した。
喪主の息子がいたので、桧山が切り出した。
「このたびはご愁傷様です。生前、お父様には大変お世話になりました」
「この村の方ですか?」
「いえ、違います。私はお父様のおかげで、今ここにいるのです」
いかに亡き村長に世話になり、いかに彼のことを慕い、いかに彼の死に心を痛めているのかを切々と訴える。
もう堪えられない……そんな感じで嗚咽する。膝を崩して泣きわめく。まさに名演だ。
「そんなに父のことを想ってくださって……」
「すみません。取り乱して……」
「これ、どうぞ」
息子がハンカチをさし出し、桧山が受け取ろうとしたが、息子はハンカチで桧山の鼻と口をふさいだ。
ガクッと桧山が崩れ落ちる。クロロホルムを嗅がせたのだ。
「いい人が見つかってよかった」
息子が額をぬぐった。
村の古い風習で、村長が死去すると村民以外から、村長を深く慕っていた人間を探す必要があった。
そして生贄として、一緒に土葬するのだ。
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