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演技力−たった1分で読める1分小説−

「クソッタレ! あんな演技力でよく主役だと偉そうにしてられんな」
 桧山は吐き捨てた。

 桧山は俳優で、今日は田舎の村にドラマの撮影にきていた。桧山の演技力は高いのだが、容姿と性格に難があって、中々役者として芽が出なかった。

 休憩時間に村をぶらついていると、葬式をやっていた。この村の村長が亡くなったようだ。
「俺の演技力を見せてやる」
 いたずら心と日頃の鬱憤を晴らすため、桧山は葬式に参列した。

 喪主の息子がいたので、桧山が切り出した。
「このたびはご愁傷様です。生前、お父様には大変お世話になりました」
「この村の方ですか?」
「いえ、違います。私はお父様のおかげで、今ここにいるのです」

 いかに亡き村長に世話になり、いかに彼のことを慕い、いかに彼の死に心を痛めているのかを切々と訴える。
 もう堪えられない……そんな感じで嗚咽する。膝を崩して泣きわめく。まさに名演だ。

「そんなに父のことを想ってくださって……」
「すみません。取り乱して……」
「これ、どうぞ」
 息子がハンカチをさし出し、桧山が受け取ろうとしたが、息子はハンカチで桧山の鼻と口をふさいだ。
 ガクッと桧山が崩れ落ちる。クロロホルムを嗅がせたのだ。

「いい人が見つかってよかった」
 息子が額をぬぐった。 
 村の古い風習で、村長が死去すると村民以外から、村長を深く慕っていた人間を探す必要があった。

そして生贄として、一緒に土葬するのだ。


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浜口倫太郎 作家
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