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漫才におけるニンの大切さ

芸人用語で『人(ニン)』というのがあります。

その芸人さんが持っている個性とか長所とかいう意味ですね。キャラとも言い換えられます。

『その芸人、そのコンビにしかできない笑い』

お笑いに限らず小説でも漫画でもどの分野でもニンは重要なんですが、お笑いにおいてはこのニンがことさら大切です。

M-1やキングオブコント、R-1などの賞レースができて芸人の競争が激化し、普通のネタをやっているだけでは勝てない。

そこで以前よりも言われていたニンがさらに重要視されるようになってきました。

特に漫才というジャンルはその傾向が顕著です。コントは役を演じるという側面があるのですが、漫才は素の自分の面白さを表現する必要があるからです。

ワラグルの中で伝説の放送作家ラリーも、「漫才はニンが一番大事だ」と言っています。

自分の個性や長所が最大限発揮できる漫才をやらないと、M-1ではとても決勝の舞台にたどり着けません。というかニンが発揮できてこそはじめて、決勝の舞台に立てるのかもしれません。

実例を出します。

『ヘンダーソン』というお笑いコンビがいます。

芸歴十三年目のコンビで、同期は見取り図、吉田たち、金属バットとかですね。

実力のあるコンビなんですが、M-1では三回戦にしか進めません。正直M-1コンプレックスがあると本人も言っていました。

僕はこのヘンダーソンのツッコミの中村フーと時々呑みに行く仲です。

中村という男はツッコミなんですが、ちょっとぬけているところがあります。天然ボケという感じですかね。あまりツッコミにはいないタイプです。

以前中村に会ったときこんな質問をしました。

「今年はM-1どうだった?」

中村は間髪入れずにこう返しました。
「浜口さん、今年は辞退してエントリーしてないんですよ

そうかあと僕は素直に受け入れました。いいネタができなかったからあえてエントリーしない。そういうコンビも少なからずいるからです。

すると隣にいたスマイルの瀬戸という芸人が、「浜口さん、こいつ嘘ついてます。二回戦落ちです」と教えてくれました。

二回戦で落ちたといいたくないから嘘をついたんですね。とにかく中村はこんなやつなんです。

中村の持ちギャグに「だめだなあ~」というのがあるんですが、まさしくダメな男なんですよ。でも芸人としてはそこも含めて面白い。

僕が呑みに行くときは他にもいろんな芸人さんがいるんですが、最終的にこの中村の独壇場になることが多いんです。イジられたときのリアクションなんかは素晴らしいものを持っています。

でも以前から漫才ではそれが活かせていないなと思っていたんです。いたって普通の漫才のツッコミをしている。それでは中村のニンが消えてるんですよね。

M-1で結果が出せない理由はこれだなと僕は考えていました。

ところが今年はヘンダーソンが、M-1準決勝まで進出できたんです。これって本当に凄いことなんですよ。なんせ今年のM-1のエントリー数は6017組ですからね。

準決勝に進出できるのは26組です。倍率約200倍を勝ち抜かないと準決勝の舞台に立てない。

今年のヘンダーソンは何が違ったのか? それは中村のニンを生かすネタにシフトしていたからです。あのくだらない嘘をついたりとぼけたりする中村のニンが、きちんと漫才で表現されていたんです。

「それだ」

スラムダンクの安西先生ばりに、そのネタを見たとき声を上げそうになりました。

中村に尋ねたところ、今年からこのネタにシフトチェンジしたとのことです。この形に落とし込むまでに相当努力したのがネタを見ればわかります。だからこそ、初の準決勝進出を成し遂げたのです。

そして明日、2021年12月2日……M-1の準決勝が行われます。決勝は準決勝よりも熱戦になると言われています。決勝に進出するだけで芸人人生が変わるコンビもいますからね。

準決勝に残ったコンビは面白い芸人さんしかいないです。誰が決勝に進出してもおかしくはない。

その中でもヘンダーソンが台風の目になるんじゃないでしょうか。

ワクワクしながら明日の舞台を見守りたいです。

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浜口倫太郎 作家
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