現代の侍−たった1分で読める1分小説−
菊松は名泥棒だった。
どんな家にも忍び入り、お宝をいただいてきた。逮捕されたことも一度もない。
今日は、とある美術商の家に忍びこんだ。
針金を鍵穴にさしこみ、扉を静かに開けた。菊松の手にかかれば、鍵など意味がない。
和室に入ると、主人が寝ていた。中年の男で、鬼のような顔つきをしている。
菊松は彼の寝息に、自分の呼吸をあわせ始めた。そうすれば相手はこちらの気配に気づかない。
息が合ったところで、菊松は動き出した。
目当ての品は刀だ。名刀『蛇闇』が、この家にある。
どこだと探していると、菊松はうしろで気配を感じた。
ゆっくりと振り向くと、主人が立っていた。手には刀をぶらさげて、刀身が月夜に光っていた。
「盗人か!」
主人の大声に、菊松はぎょっとした。顔といい声といい、迫力がすさまじい。
斬られる……菊松がそう覚悟を決めると、主人が刀をさやに収め、ズイッと菊松に渡した。
「持っていけ」
「……よろしいのですか」
「早くせぬか!」
「はぃ!」
菊松は刀を受けとると、逃げるように立ち去った。
菊松は家に帰ると、胸をなでおろした。
あれほどドシッとした男がいるのか。まるで現代の侍だ。
すると何者かがやってきた。警察官だった。
「おまえを強盗の容疑で逮捕する。被害者から通報があった」
「どっ、どうして家が……」
「その刀にはGPSがついている。
被害者は非常に怖かったらしく、おいおいと泣いていたぞ」
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