ペットの治療費−たった1分で読める1分小説−
「犬の骨折の治療費が四十万円! てめえふざけてんのか」
動物病院で、男が怒鳴り声を上げた。
ベッドの上では、犬が苦しそうにうめいていた。
男は誤ってペットを床に落とし、犬は骨折してしまった。
「犬だぞ、犬! 人間様の治療費だったらまだ納得できっけどよ、犬の骨折で四十万円だと! ぼったくりか」
獣医が困り顔で説明する。
「ペット保険の加入もなしで複雑骨折ですので、それが正規の料金です」
激怒する男に閉口して、獣医が首を縦に振った。
「……わかりました。四十万は結構です」
「いくらになる?」
「無料で治療致します」
「無料? てめえ、やっぱりぼったくりじゃねえか!」
「ペットの方は無料という意味です」
いつの間にか、医師がガスマスクをつけていた。部屋中が煙に包まれ、男は意識を失った。
気がつくと、ベッドの上に寝かされていた。手足をバンドで固定されている。
獣医が声をかけてきた。
「お目覚めですね。ペットの手術は無事成功しました」
「そんなことはどうでもいい。なんだ、これは」
暴れるが、バンドはびくともしない。
「人間の骨折の治療費ならば納得してお支払いされるようなので、あなたの治療費で犬の分をまかないます」
獣医はハンマーを手にして、重そうに持ち上げた。まさか……。
「やめろ、やめろ」
男が脂汗をたらして止めようとするが、そのハンマーは男の足に振り下ろされた。
耳をつんざくような絶叫が響き渡った。
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