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横文字−たった1分で読める1分小説–

 ここは現代でも江戸情緒が残った下町。
「ご隠居、どうすりゃおいらはモテるんです?」
 八兵衛がきくと、ご隠居があごをなでた。
「なんでも横文字を使ったらモテるらしいぞ」

 八兵衛は早速街に出た。ところが八兵衛は、横文字がさっぱりわからない。
 するとある男が、電話で話していた。
「我々はイノベーションなソリューションとグローバル展開を入れてインパクトを最大化し、リソースをリアルロケーションしよう」

 何もわからない……そのたくみな横文字に、八兵衛は衝撃を受けた。男の手をつかむとこう頼んだ。
「師匠! 弟子にしてください」

 男は驚きつつも、八兵衛の話を聞いてくれた。
「そうですか、モテるために横文字を使いたいんですね」
「へい、師匠の先ほどの横文字、おいら大変感動いたしやした。あれはどういう意味なんですかい」

「わかりません」
「……そりゃどういうことですかい?」
「何かそれっぽいことを話しているだけです」
「いってぇなんでそんなことを?」
「横文字を使えば仕事ができる男を演出できます。誰も意味なんてわかっちゃいません。
 私も必死で横文字を話せるように練習しました。これを見てください」

 男が舌を出すと、傷だらけだった。
「何度も舌を嚙みながら、まさに血のにじむ努力で、我々は横文字を話しているのです」

 ツーッと、男の頬をひとすじの涙が伝った。
 八兵衛はぼそりとつぶやいた。

「横文字って大変なんだな……」


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浜口倫太郎 作家
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