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ブロック−たった1分で読める1分小説−

「横井君、もう少し早く来てくれたら、こちらも助かるんだが」
 遠慮がちに上司が言うと、横井が露骨に嫌そうな顔をした。

「だから家が遠いんですって、家賃手当が少ないから、近くに住めないんでしょ。これは会社の責任で……」
「……もういい」
 上司が辟易して、話を打ち切った。

 帰宅すると、横井はうんざりと吐き捨てた。
「まったくむかつく奴らばかりだ」
「ではどうにかしてやろうか」
 突然の声がすると、そこに仙人がいた。

「ブロックって知ってるかの?」
「SNSで自分の投稿を見れなくする機能だろ」
「そうじゃ。それを応用したわしの能力で、お互いの姿も声も消すことができるぞ」
「そりゃいいな」

 翌日、横井が上司をブロックすると、上司が消えた。なるほど。上司も俺が見えないのか。
 これはいい。みんなむかつくんだから、手当たり次第ブロックしてやる。
 とうとう横井は、自分以外全員をブロックしてしまった。
 ただこうなると、寂しくて人恋しくなる……。

「おやおや、ずいぶんブロックしたの」
 仙人が姿を見せた。
「おい、解除はできないのか」
「できるぞ。解除してやろうか」
「たっ、頼む」
 横井は安堵の息を吐いたが、何も変化がおこらない。無人のままだ。

「おい、解除しろ」
「解除したぞ」
「……どういうことだ?」

「おまえの後で、この力を他の者も利用できるようにした。

 嫌われ者のおまえは、現在世界中の人間からブロックされてる」



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浜口倫太郎 作家
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