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子供のために−たった1分で読める1分小説–

「用とはなんだ? アルフレッド」
 リチャードが疑わしそうにきいた。

 二人はプロ野球選手。アルフレッドはピッチャーで、リチャードはバッターだ。
 お互いライバル同士のチームに所属して、明日対決する。その試合で勝てば優勝となる。

 アルフレッドがガバッと頭を下げた。
「頼む、リチャード。明日はオレの球を打たないでくれ」
 リチャードが怒声を上げた。
「きさま! オレに八百長をしろというのか!」

 アルフレッドが写真をとりだし、リチャードに見せた。そこには可愛らしい少年が写っていた。

「彼は重い心臓の病を抱えていて、俺のファンだ。だが彼はどうしても手術を受ける勇気が出ない。そこで明日、オレがおまえから三振を取れば、手術を受けると約束してくれた。だからお願いだ。一人の少年の命を救うと思って」
「……考えさせてくれ」

 アルフレッドが帰ると、コーチがやってきた。リチャードは彼に事情を説明した。
 リチャードがガタガタと震えているので、コーチが鼻で笑った。
「おいおい、それはアルフレッドがおまえを動揺させるための作り話だ」

 リチャードが写真をとりだした。子供が写っている。
「明日オレがアルフレッドからホームランを打てば、手術を受けるとこの少年と約束したんだ」
「まったく同じ話だな……」

「同じなのはそれだけじゃない」
「どういうことだ?」
「アルフレッドが見せた写真の少年とその写真の少年、

 同一人物なんだ……」


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浜口倫太郎 作家
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