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反省文−1分で読める1分小説−

「バカ野郎、何が始末書を書けだ」
 ジロウは、居酒屋で一人酒を飲んでいた。仕事で失敗をして上司に怒られ、むしゃくしゃしていた。

 一人の男が店に入ってきた。五十代ほどで、光沢のあるスーツを着ている。
 男がジロウの隣に座った。

「あれっ、あんたどっかで見たような気が……」
 男の顔に見覚えがあるのだが、酔って頭がはっきりしない。
「よかったらご一緒しませんか。一人だとなんだか寂しくて」
「おう、いいぜ」

 二人で飲み始める。男は気さくで、しかも聞き上手だった。
「聞いてくれよ。オレ、始末書書かされるんだよ」
「始末書ですか。懐かしいですね」
「懐かしいってなんだよ」

「子供の頃、よく学校の先生に反省文を書かされたんですよ」
 男が苦笑する。
「ははっ、なんだよ。あんた、悪ガキだったのか」
「ええ、反省文を書いて先生に見せると、おまえには才能があると言われたんです」

「なんだ。文才があったってことか」
 もしかすると有名な作家なのだろうか? 

「いえいえ文才ではなく、『反省しているように振る舞える才能がある』と言われたんです。確かに私はちっとも反省なんかしてませんでしたからね。ですが、その一言で将来の道が決まったんです」
「反省してるふりができる才能が活かせる仕事か? なんだそりゃ」

 そこにぞろぞろと黒いスーツを着た男達がやってきた。
 その一人が弱り顔で言った。
「こんなところにおられたのですか。

総理」


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浜口倫太郎 作家
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