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地獄変−たった1分で読める1分小説−

「なぜだ。なぜ自宅を放火した」
 取調室で、刑事の田所が宮内に問うた。
 宮内は、不敵な笑みを浮かべている。

 宮内は自宅に火を放ち、全焼させた。幸いにも隣家が離れており、人もいなかったので、家が燃えただけで済んだ。
 田所は放火魔とは何度か出会ったが、自分の家を燃やした人間はいなかった。

「刑事さん、芥川龍之介の『地獄変』を知ってますか?」
「もちろん。有名な話だ」

 平安時代の絵師が、地獄絵図の屏風絵を描くように殿様に命じられた。実際に見ないと描けない、と絵師は殿様に訴えた。
 すると殿様は、牛車に絵師が溺愛する娘を入れた。そして、そこに火を放ったのだ。まさに地獄の光景だ。

 焼けただれる娘を、絵師は静かに見つめ、その光景を屏風絵に描いた。その後、絵師は自殺した。

「私はあの絵師と同じく、究極の芸術を表現したくなったのですよ」
 クツクツと宮内が笑い、田所はぞっとした。

 急いで廊下に出ると、新人の刑事と出くわした。
「おい、宮内に娘はいるか?」
「いいえ、あいつは独身です」
 田所はひとまずほっとした。殺人はしていない。

「それより警部、焼け焦げたあいつの家の軒下から、大量の焼き芋が出てきました」
「焼き芋? なぜだ?」
「宮内の仕事と関係があるのでしょう」
「仕事? あいつは芸術関係の仕事だろう。画家とか」
 地獄変を模倣したと言っていた。

「いえ、違います」
「じゃあなんの仕事だ?」

「宮内の仕事は焼きいも屋です」


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浜口倫太郎 作家
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