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メモ魔−たった1分で読める1分小説−

「それでさ、この前見た動画がめちゃくちゃ面白かったんだよ。なんだっけ、ど忘れしたな」

 トモキが考えこむと、リョウがメモ帳をめくり始めた。
「十二日前にいってた、猫がびっくりして飛び上がる動画だろ」
「そんなことまでメモってるのか、ほんとメモ魔だな」

 リョウはいつも鉛筆と手帳を手にして、メモをとっている。リョウがその二つを手放しているのは、寝ている時ぐらいだ。

「今日は何を書いたんだ?」
「朝起きて体重と血圧と身長を書いて、朝食のメニューを書いて、テレビの朝のニュースの内容を書いて、お父さんとお母さんと何を話したかを書いて、学校まで何歩歩いたかを書いて……」

「もういい。俺が悪かった」
 トモキが止めた。
「でもさ、メモなんかあとでとればよくないか」
「記憶って生ものだからさ。新鮮なうちにメモった方がいいんだ」

 そんなある日、大事件が起きた。
 リョウがひき逃げにあった。

 トモキが病室に入ると、リョウはベッドで寝ていた。
「大丈夫か」
「うん。車にはねられて宙を飛んだけど、奇跡的に軽傷ですんだ」
「よかったな……」

 トモキが安心すると、冗談まじりにいった。
「でもおまえだったら、空中を舞いながら車のナンバーでもメモれるんじゃないか」
「ハハッ、ただナンバーは無理だったけど、これならメモれたよ」
 リョウが手帳を見せると、トモキは目を点にした。

そこには精密な運転手の似顔絵が描かれていた。


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浜口倫太郎 作家
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