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逆ギレ−たった1分で読める1分小説−

「うわあ、やっちまったぁ」

 編集者の柿谷が頭を抱えていると、同僚の菅野が声をかけてきた。
「どうしたんだ?」
「半年前に漫画家に依頼した原稿の返事をするのを忘れてて、漫画家が怒ってるんだよ」
「そういう時は『逆ギレ』しろよ」

 柿谷は菅野から、逆ギレの詳しいやり方を教えてもらった。そして漫画家の元に出向いた。
「誠に申し訳ありませんでした」
「半年間も原稿を放置するってありえないでしょ。あの漫画は、私の人生をテーマにした大切なものなんです」

 立腹する漫画家に、柿谷は倍以上の怒声を上げた。
「うるせえ!」
 漫画家がビクリとする。
「もう謝っただろ。これ以上謝る意味がどこにあんだ。先に謝る回数と目的を言えよ。金銭的な補償をすりゃいいのか」

「……そんなこと言ってないです」
「返事しなかったのは、あの漫画じゃ売れねえからだよ。おまえの人生なんか誰も興味ねえよ。つまんねえもん描いたおまえのせいだろが。逆に謝罪しろ!」
 漫画家が涙目で押し黙り、柿谷はほくそ笑んだ。

 それ以降、柿谷は逆ギレ人生を送り続けた。
 ただ柿谷は死ぬと、地獄の最下層である無間地獄に落ちた。逆ギレは、想像以上に罪深かった。

 凄惨な責め苦で、柿谷は泣き叫んだ。まさに、阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
 そこに、かつての同僚である菅野がいた。

 柿谷が目をつり上げた。
「おまえのせいで、地獄に落とされたぞ!」
 菅野がうつろな顔で返した。


「逆ギレすんなよ……」



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浜口倫太郎 作家
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