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ストリートミュージシャン−1分で読める1分小説−

 駅前で、ジュンは歌を歌っていた。
 心をこめて熱唱するが、誰も足を止めない。

 すると、スーツ姿の男性が立ち止まった。ジュンの歌に耳を傾けている。 

 その一人の観客のために、ジュンは声に熱をこめた。不思議なもので一人でも観客がいると、他の人も聴いてくれる。最終的には数人のお客さんができた。

 スーツの男性が、ギターケースに万札を数枚入れた。そのまま立ち去ろうとするので、ジュンはびっくりして止めた。
「待ってください。さすがに多すぎです」
「君の独創性のある曲に感動したんだ。払わせて欲しい」
 彼が微笑んだ。名前は、アミノだった。

 それからもアミノはジュンの歌を聴いて、大金を払った。
 歌い終わると二人で公園に行き、一緒に缶コーヒーを飲む仲になった。

 するとアミノが、悲しげな表情でいった。
「……ジュン君、申し訳ないが、君の曲が聴けるのは今日で最後だ」
「どうしてですか?」
「私は今から自首するんだ……」

 耳を疑うような告白だった。アミノは会社の金を横領していた。
「君のオリジナリティーあふれる歌を耳にして、金を盗んでる自分が恥ずかしくなってね……それで罪滅ぼしじゃないけど、いつもお金を入れてたんだ。あっ、それはちゃんと自分の給料だから」
「そうですか……」

 そこでジュンが黙りこみ、妙な沈黙が生まれた。
「アミノさん、ボクもあなたに謝りたいことがあります」
「なんだい?」

「ボクの曲はすべて盗作です」


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浜口倫太郎 作家
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