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覚えてる?−1分で読める1分小説−

「オレのこと覚えてる?」
 高校生の同窓会で、ユウジが自分を指さした。
 この同窓会の幹事は、ユウジだった。

 ユウジは大学を卒業して社会人になったが、冴えないサラリーマンだった。上司には怒られ、同僚と部下からは無視されている。
 学生時代のオレは目立っていて有名人だったのに……時間とは残酷なものだ。そう落ちこんでいると閃いた。

 そうだ。同窓会を開こう。
 自分がヒーローだったあの頃のクラスメートに会えば、みんなちやほやしてくれる。そうすれば自信も取り戻せる。

 クラスでも中心的存在だったキミカが、ああと声を上げた。
「もちろん、覚えてるよ」
「おまえも変わってないな。覚えてるか。おまえさ、バレンタインでオレにチョコくれただろ」

「そんなことあったっけ?」
「何いってんだ。あっただろ」
 そこでキミカが謝った。

「ごめん。誰だっけ? ぜんぜん覚えてなくて」
「そりゃないだろ。オレ、有名人だっただろ」
 他の同級生達も、ユウジのことを覚えていなかった。
 そこでユウジは、中学校の同窓会を開いた。高校よりも、中学校での方がユウジは活躍していた。

 しかし中学校の同窓会でも、誰もユウジの記憶がない。ユウジは意地になった……。

 とある家で、男がハガキを受けとった。差出人は真壁ユウジ。知らない名前だ。
 ハガキを一読して、男は首をひねった。
「晴野病院産婦人科、1998年11月期新生児室同窓会のお知らせ……

 なんだこりゃ?」


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浜口倫太郎 作家
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