マルチ商法−たった1分で読める1分小説−
「久しぶりだな、新堂」
カフェで中田は、懐かしそうに目を細めた。
「変わってないね。中田君は」
新堂が頬をゆるめる。中学校のクラスメイトだ。
十数年ぶりに新堂が、「会いたい」と中田に連絡をくれた。突然の旧友からの誘いが、中田は嬉しくてならなかった。
「で、なんだよ。急に呼び出したりしてさ」
「実はさ、中田君にぜひお勧めしたいものがあるんだ」
「なんだよ……」
嫌な予感が、中田の神経に触れる。
「すっごくいい浄水器と羽毛布団があるんだ。これが格安で買えるから、ぜひ中田君に教えてあげたくて」
中田の胸が急速に冷えていく。嬉しさが失望へと様変わりした。
マルチ商法だ……。
儲かるからといって、知り合いを強引に会員に勧誘することで問題になっていた。
それで急に連絡してきたのか……喜んだ自分の愚かさもむかついた。
「ふざけんなよ。マルチに勧誘するなんてよ」
中田は憤然と立ち上がると、店を出ていった。
数日後、中田は友達の岡部と話していた。
「そういや新堂から連絡が来てさ、浄水器と羽毛布団を勧めてくれて買ったんだよ」
「バカ、おまえ買ったのか」
岡部も同じ学校だった。
「二つともめちゃくちゃよくてよ。俺、すっごい健康になったよ」
「……そこから会員に勧誘とかなかったのか」
「あるわけないだろ。ほんと勧めてくれた新堂に感謝だ」
中田がぼそりとつぶやいた。
「マルチ以外で、浄水器と羽毛布団セットで勧める奴っておんの?」
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