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犯罪者の才能ーたった1分で読める1分小説ー

「なぜだ。なぜ、こんなことをしたのだ?」
 刑事が目の前の男に問うた。

「さあ、なぜですかね?」
 三枝がにやにやと笑った。

 彼の名前は、三枝和毅。銀行強盗に失敗して、警察に連行された。
 三枝は銀行の受付に、「金を出せ」とナイフをつけたところ、急に笑い転げたとのことだ。

「なぜ笑ったのだ?」
「私は持ち物にはすべて名前を書く習慣があります。もちろんナイフにも名前を書きました。
 そしていざナイフを行員につきつけた瞬間、『強盗に使うナイフに名前を書いてはダメだ』と気づいたのです。それでおかしくなって笑いが止まらなくなったのです」

 三枝はクククと笑い出し、刑事はとまどった。三枝は極度の笑い上戸なのか、ずっと笑っている。

「……なぜ銀行強盗などやろうとしたのだ?」
「友人に言われたんですよ。おまえは犯罪者に向いているってね。フフフ」 三枝がまた笑い出した。

 刑事は、三枝の友人と話した。
「三枝はあなたに犯罪者に向いていると言われて、犯行に及んだと自供しています。なぜそんなことを言ったんです。あんな笑い上戸な男、犯罪者にはまるで向いてない」

 友人が弁明する。
「冗談で言ったんですが、まさか本気にするなんて……ただ、私は犯罪者に向いているとは一言も言ってません」
「なんとおっしゃられたんですか?」
「おまえは犯罪者は無理だけど、

愉快犯にならなれるかもなって」



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浜口倫太郎 作家
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