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植物好きの彼女−たった1分で読める一分小説−

 裕太は一目惚れをした。

 近所の公園に、白いワンピースを着た女性がいた。まぶしそうに樹を見上げている。
 その美しい絵画のような姿に、裕太は心を奪われた。

「何をご覧になられてるんですか?」
 思い切って声をかけてみる。
「樹です」
 いたって普通の樹木だ。
「私、植物が好きなんです。見ているだけで心が癒やされます」
 その柔らかな笑みに、裕太は胸がバクバクした。

 それ以来、彼女と公園で話すようになった。彼女の部屋は日当たりが悪く、日の光を浴びるために、公園を散歩するのが日課だそうだ。
 いつ告白するか……そう思案していたある日、彼女が寂しそうな表情を浮かべた。

「私、遠くに行くの……」
「えっ……」
 裕太が言葉を失うと、彼女があるものを渡した。
 それは鉢植えだった。鮮やかな緑の植物が植えられている。
「これあげる。じゃあね」
 そう言い残すと、彼女は去っていった。裕太は失恋した……。

 せめて彼女の置き土産を大事に育てよう。ベランダで植物に水をやっていると、何者かが訪ねてきた。

「どちら様ですか?」
 男が名乗り、裕太は驚いた。刑事だった。
「こちらの女性に見覚えは?」
 そう写真を見せると、それはあの彼女だった。

「知ってますが、彼女が何か?」
「彼女は犯罪を犯して、現在逃亡しています」
 裕太がぎょっとした。
「一体、なんの犯罪ですか?」
 刑事が、ベランダの鉢植えを見つめた。

「大麻の密売です」


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浜口倫太郎 作家
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