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托卵妻−たった1分で読める1分小説−

「托卵妻……」
 ネットで見たその言葉に、祐太朗はドキリとした。

 別の男性との子供を、夫の子として育てる女性のことを指すそうだ。
 祐太朗が動揺した理由は、祐太朗と子供がまるで似てないからだ。

 祐太朗は資産家だが、容姿が悪かった。けれど息子は、学校や近所でも評判のイケメンだった。

 本当に俺の息子なのだろうか……その疑惑の念は膨らみ、とうとう限界に達した。祐太郎は息子の唾液を採取して、親子鑑定のDNA検査をした。
 検査会社からの報告は、正真正銘の親子という判定だった。

 なんだ……。
 祐太郎は胸をなでおろした。

 その数日前、遺伝子検査の会社で、陣内が後輩に命じた。
「おい、この親子鑑定の結果、親子だというダミーデータに変えておけ」

 後輩が首をひねった。
「どうしてですか、不一致じゃないですか」
「この奥さん、以前うちの精子バンクを利用されてる。美男か美女の子供が欲しいと言われて、モデルの精子を提供した。たぶん旦那のルックスが気にくわないけど、金に惹かれて結婚したって口だろ」

「ありそうな話ですね」
「で、夫が本当の親子かどうかを疑って、DNA検査を依頼した際、親子だったと偽のデータを送るオプションサービスもつけてた」

「なるほど。うちは最大手のメディカル企業だから、そんなことができるんですね」
「このオプションサービスの名前教えてやろうか?

 托卵妻サービスだ」


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浜口倫太郎 作家
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