配達のスピード−たった1分で読める1分小説−
「おっ、もう来たのか」
拓郎は、玄関前に置かれているダンボールを見て喜んだ。
昨日ネットで注文した商品が、翌日に届いた。便利な時代だ。
ただ次第にそれにも慣れて、遅いと感じるようになった。
「当日配達が可能になっただって?」
新しいサービスがはじまり利用すると、本当に当日に荷物が届いた。
その時間がどんどん短縮していき、注文したと同時に荷物が玄関に置かれていた。どういう仕組みかはわからないが、便利ならば問題はない。
さらに、新しいサービスがはじまった。それは未来配達サービスだ。利用者の脳波を読みとり、何が欲しいかを本人が自覚する前に察知して配達してくれる。
隣人の男性が、食料品がつまったビニール袋を重そうに運んでいた。
拓郎が親切心で教える。
「今、AIが未来を察知して、勝手に欲しいものが配達されますよ。便利ですよ」
隣人が笑顔で首を振る。
「ありがとうございます。でも私は、自分で買い物をする方が好きなんですよ」
時代遅れもはなはだしいと、拓郎はあきれた。
ある日、玄関前でドスンと重そうな音がした。それは、大きな木の箱だった。
「なんだ、これ?」
拓郎が首をひねると、「うっ」と苦しそうに胸を押さえた。そしてバタリと箱の中に倒れこんだ。
帰宅した隣人が、拓郎を発見した。その顔には血の気がない。
隣人がびっくりした。
「死ぬのを予知して、もう棺桶が配達されてる」
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