ホラー映画−たった1分で読める1分小説−
「いいか、最高の殺され役を探してくるんだ」
映画監督の五十嵐が、スタッフ達に命じた。
ホラー映画の巨匠である五十嵐が、最新作を撮影する。ただ殺人鬼に殺される役が決まらなかった。
「ホラー映画で殺される人間といえば、軽薄な若者だ。殺されて客がスカッとするような奴だ。
頭の中身がからっぽな、女の尻をおっかけることしか能がないような、どんな育て方をしたんだと親に説教をしたくなるような、どうしようもないクズが必要なんだ」
スタッフの遠藤が首をひねった。
「そんな俳優さんいますかね?」
「そうだな……俳優が演じるよりも素人の方がいいな。その方がよりリアルだ」
そこでスタッフが総出で探し回ることになった。だがどこにもいない……。
公園のベンチで遠藤が頭を抱えていると、
「おじさん何してんの?」
男が声をかけてきた。
「頭いてえの? 俺、頭痛ってなったことねえな。だってなんも考えたことねえもん」
見た目といい、頭の中身のなさといい、五十嵐の指示通りの人物だった。
五十嵐の前で、遠藤は自信満々で言った。
「監督、軽薄で頭がからっぽで、親に説教したくなるようなクズ男を見つけてきました」
「本当か?」
「ええ、君入ってきて」
廊下に控えていた男が入室すると、五十嵐の表情が変わった。自分の理想とぴったりなので、感動しているのだろう。
すると男が、五十嵐を指さして言った。
「あれっ、パパ何してんの?」
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