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防犯ブザー−たった1分で読める1分小説−

「タッくん、悪い人がいたら、ブザーを鳴らすのよ」
「うん。わかった。ママ」

 心配そうな母親に、まだ大きなランドセルを背負った拓巳がうなずいた。
 拓巳は今日から小学生だ。ランドセルには、その防犯ブザーがぶらさがっている。

 すでに小学校に通っているお兄ちゃんやお姉ちゃんと一緒に、拓巳は緊張しながら登校する。
 途中で、緑の服を着たおじさんがいた。サッと拓巳が防犯ブザーに触れようとすると、
「あれは僕達の安全を見守ってくれる人だよ。悪い人じゃないから」
 お兄ちゃんが教えてくれて、拓巳はほっとした。

 その日から拓巳は大人に出会うと、いい人か悪い人かを判断するようになった。
 スキンヘッドで強面の人が話しかけてきたが、この人はいい人だ。いつも街の掃除をしてくれている。
 拓巳は女性の前で立ち止まった。綺麗な女の人だ。
「僕、どうしたの?」
 彼女が腰をかがめると、拓巳はブザーを鳴らした。
「悪い人だ!」

 後日、拓巳は母親と一緒に警察の署長室にいた。
 署長が、拓巳に表彰状を渡した。
「君、お手柄だよ」
 周りの警察官が拍手する。

 あの女は、結婚詐欺の常習犯だった。いつの間にか拓巳は、悪人を見抜く能力が発達していた。
「いやあ、いずれは警察官になって欲しいな」
 にこにこと署長が褒めると、拓巳は防犯ブザーを鳴らした。
「拓巳君、どうしたんだい?」
 拓巳は署長を指さした。


「このおじさん、すっごい悪い人だ!」



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浜口倫太郎 作家
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