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バナナ−たった1分で読める1分小説−

 光太が、教室でバナナを食べていた。その光景を見て、菜々子は思わず顔をしかめた。

 光太は菜々子のことが好きで、何度も告白してきた。菜々子は光太が嫌いで、そのたびに断るのだが、光太は一向にあきらめない。

 ただその日から暇さえあれば、ずっとバナナを食べている。一言も発さず、モグモグと口を動かしているのだ。

 それと、あれだけ執拗だった菜々子への告白もピタリとなくなった。その異様な行動が、菜々子は気味が悪かった。

 そんなある日、菜々子は教室に入った。
 光太がいないとほっとしたが、すぐにしかめっ面になる。光太の机に、バナナがポツンと置かれていた。もう来ているのだ。

「あいかわず早いね」
 どこからか光太の声が聞こえて、菜々子はぎょっとあたりを見回した。
「ここだよ、ここ」
 バナナがクスクスと笑った。
「そう、僕はバナナになったんだ」

 光太曰く、人間とバナナの遺伝子は五十%が同じ。だったらバナナを食べ続けて残り五十%をバナナに染めれば、きっとバナナになれる。そう考えたそうだ。

「……なんでバナナになったの?」
「何度告白しても、君は応じてくれない。さすがの僕もあきらめた。だったらバナナになって、君に食べてもらおう。そうすれば、僕は君と一つになれる。さあ、食べて」

 菜々子の全身に虫唾が走り、反射的に叫んだ。
「気持ち悪っ!」

 そして、バナナの光太を思いっきり窓の外に放り投げた。


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浜口倫太郎 作家
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