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フェロモン−1分で読める1分小説−

 ユヅルのスマホから通知音が鳴り響いた。すべて女性からのメッセージだった。
「どうしておまえがそんなにモテるんだ?」
 テンマが不思議そうに首をひねった。

 ユヅルは容姿も成績も運動神経もいたって普通だが、女子に大人気だった。
「ボクの体から女性が好きなフェロモンが出てるんだって」
「マジかよ」

 そこでテンマが閃いた。
「そうだ。おまえのフェロモン入りの香水を作ろうぜ」
 テンマの専攻は化学で、優秀な成績を収めていた。

 早速ユヅルブレンドのフェロモン香水を作ってみたが、効き目が薄かった。
「たぶん臭さが足りないんだ。ユヅル、風呂に入るな、歯を磨くな。とにかく不潔でいろ」
「嫌だよ。ボクきれい好きなのに……」
「うるさい。すべての男達の夢を叶えるためだ!」

 その数年後、テンマとユヅルが作ったフェロモン香水は大ヒットした。
 高級スーツ姿のテンマが得意げに語り、インタビュアーが感心した。

「なるほど。すべては草部ユヅルさんから始まったんですね。草部さんからもお話をうかがいたいのですが?」
「呼んでるのですぐに来ますよ。あっ、いったそばから」

 扉が開くと、インタビュアーはあ然とした。
 そこには服がボロボロで、髪の毛もボサボサの、信じられないほど不潔な男がいた。その背後には、目がとろんとした女性達が付き従っている。

「くっ、草部ユヅルさんですか?」
 ユヅルが泣きながら頼んだ。

「ふっ、風呂に入らせてぇ……」



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浜口倫太郎 作家
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