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恋愛小説家−たった1分で読める1分小説−

「ああ、泣けたぁ! もうエモすぎる」
 絵理奈はティッシュで、力強く鼻をかんだ。泣きすぎて、顔がボロボロになっている。

 水色とピンク色の装丁の本を大事そうにとじる。著者名は、『星空キラリ』だ。
 星空キラリは、有名な恋愛小説家だ。淡く揺れる若者の恋愛感情を、丹念に描くことができる。

 覆面作家で、顔写真も公表していない。噂では十代だと言われているが、それは真実だろう。絵理奈と同世代だからこそ、ここまで若者の胸を打つ物語が描けるのだ。絵理奈は、星空キラリの大ファンだった。

 そんなある日、驚愕のニュースが舞いこんだ。星空キラリが姿を見せて、サイン会をするのだ。
 絵理奈は凄まじい倍率の抽選を勝ち抜き、参加の権利を勝ち取った。

 当日、会場は十代の女性ばかりだった。みんな顔が紅潮している。星空キラリは、イケメンという噂があるからだ。
 女性のMCが呼び込んだ。
「星空キラリ先生の入場です」

 一瞬黄色い歓声がわきかけたが、瞬時のうちにしぼんだ。
 そこに、よぼよぼの老人が登場したからだ。
「星空キラリです」

 しんと水を打ったように会場が静まった。絵理奈も声が出せない。
 すると誰かが、悲鳴のような声を上げた。
「嘘でしょ。キラリ先生は十代のはずよ!」

 キラリが答える。
「わしは十代です」
「何言ってんの。どう見てもおじいちゃんじゃん!」
「あっ、すみません。正確には百十代……

 年齢は、百十三歳です」


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浜口倫太郎 作家
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