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刑事の子−たった1分で読める1分小説−

「先輩、また調書読んでるんですか」
 後輩刑事の畑野が、あきれて後藤に言った。
「うるさい」

 今後藤と畑野は、ある殺人事件の犯人を追っていたが、その行方がわからなかった。
「お子さん、産まれたばかりなんでしょ。お父さんと遊びたいんじゃないですか」
「……あいつも刑事の子だ。辛抱してもらう」
 後藤の家は警察一家で、父親も刑事だった。

「うわっ、古いですって」
 畑野が顔をしかめた。
 ただ畑野の言うことももっともだ。後藤は一日だけ休みを取って、家族と過ごすことにした。

 妻が行きたいと言っていたベビーサインの教室を訪れた。

 ベビーサインとは、まだ話せない赤ちゃんと手話やジェスチャーでコミニケーションをとる育児法だ。
 息子とのやりとりが楽しくて、後藤はすぐに学んだ。

 帰宅すると、後藤は妻に事件について話した。妻は元警察官だ。頭の中を整理する際、後藤は妻と会話をする。

 すると息子が、「あーっ、あーっ」ベビーサインを始めた。後藤の顔色がみるみるうちに変わっていく。
「どうしたの?」
 妻が首を傾げると、後藤はあわてて家を飛び出した。

 しばらくして、後藤が犯人を逮捕した。
 畑野が嬉しそうに訊いた。
「先輩、どうやって奴の居所がわかったんですか」
 フッと後藤が微笑んだ。
「うちの子供はやっぱり刑事の子だ」

「どういうことですか?」
「俺達の話を聞いて推理して、

ベビーサインで犯人の居場所を教えてくれたんだよ」


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浜口倫太郎 作家
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