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王立日記館−たった1分で読める1分小説−

「うわあ、凄いですね」
 ティナが、グルッとあたりを見回した。周囲一面すべてが本で埋めつくされている。まさに本の森だ。

「さすが王立日記館ですね」
「はい」
 司書のマチルダが、嬉しそうにいう。
 この本はすべて日記帳だった。

「少しこの施設の歴史について説明させていただいてもよろしいでしょうか」
「ぜひ」
「ご存じの通り我が国の国民は日々日記を書き、この日記館に提出することが義務づけられています。
 この制度が誕生したのは、今より千年前。マドカリカ三世の頃です」

「なぜ、王様はそんなことをされたんですか?」
「国民全員が作家となり、日々のできごとを書けば、それは貴重な資料となります。ただそれよりも重要な意図があると私は思っています。

 人は悩みを抱えて生きています。その悩みを解消するには、いろんな時代の人の日記を読むこと。日記を読めば、悩んでいるのは私ではないと気分が楽になります。王様の狙いはそこにあったのではないでしょうか」

 ティナが笑顔でうなずいた。
「きっとそうですね。私もそのために今日ここにきたんです」
「ではお客様と似た方の日記を見つくろいましょう。そうですね。百年ほど前の……」

 千年前。王様の部屋に秘書官があらわれ、苦い顔をした。
「王様、あの『国家日記法案』はなんなんですか?」
 王様があっけらかんと答えた。

「だって合法的に人の日記を読みたいんだもん!」


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浜口倫太郎 作家
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