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パワハラ−たった1分で読める1分小説−

「近藤、おまえからパワハラを受けたという報告があった。声を荒げられたとな」
 部長が苦い顔で告げ、近藤は耳を疑った。

 パワハラとは、パワーハラスメントの略。立場が上な者が下の人間に対して乱暴なふるまいをすることだ。

「……訴えたのは向井ですか」
「それはいえん」
 部長の表情を見れば、そうだといっている。向井とは近藤の部下だ。

「しかし向井に早く一人前になって欲しいという想いから言葉が強くなってしまっただけで……」
「近藤、俺たちの時代とは違うんだ。今の若者にそんな指導は通用しない。おまえはクビだ」
 やりきれない様子で、部長がうつむいた。

 近藤は退社して、バーの経営を始めた。しばらくして、かつての部下の向井がやってきた。
「……近藤さん、あの時はすみません」
「やっぱりおまえか」
 時間が経っているので、腹は立たなかった。

「俺、解雇されました」
「何をしたんだ」
「近藤さんが辞めて出世したんですが、部下にパワハラで訴えられたんです」
「おまえもか」
「部下に訴えられて初めて、近藤さんの気持ちがわかりました」
 そう向井が声をしずませた。

 その後新人を恐れて、上司は誰も指導しなくなった。人が育たず競争力は低下し、会社は倒産した。その現象は全国各地で起こった……。

 百年後、学校で教師がこう説明した。
「こうして国が滅びました。

これを、パワハラ国家崩壊といいます」


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浜口倫太郎 作家
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