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広告ペース−1分で読める1分小説−

「社長、新しい広告のアイデアを考えました」
 コウノが得意げに、社長のキクチにいった。ここは広告代理店だ。

「なんだ?」
「広告とはみんなが見てくれるところに出すと価値が生まれます」
「そのとおりだ」
「みんなが見るものとは何か? それは結局人ではないでしょうか。そこであらゆる人の背中を、広告スペースにします。広告の入った服を着てもらうのです」

「素晴らしいアイデアだ」
「有名人の背中は高値になります」
「他にも美男美女は高そうだな。みんな彼らを見るからな」
「誠実で信頼のおける人物も高値になります。そんな注目度を測定する装置を作成しました」
 コウノが装置を自分の額にあてると、かなりの高額だった。

 コウノが立ち去ると、秘書のマドカがやってきた。
 キクチがさっきの話を教えると、マドカが感心した。
「面白いですね」
「……ただ私の想像以上に、コウノが高額だった」
「コウノさんは優しいって社内でも評判ですよ」
 マドカが褒めると、部屋から出ていった。

 キクチは、じっと測定装置を見つめた。
 私は一体いくらなんだろう?
 社長だから高額だと信じたいが、もし低額だったら立ち直れない……。

 迷った末、キクチは覚悟を決めた。額に装置をあてると、
『エラー』
 と表示された。何度やってもエラーになる。そこでキクチはハッとした。コウノがあえてそうしたのだと。

 キクチが心の底からつぶやいた。

「あいつ、ほんとに優しいんだな……」


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浜口倫太郎 作家
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