尖った芸人−たった1分で読める1分小説−
「ふざけんなや。俺は芸人やぞ。グルメロケなんか、芸人もどきにやらせんかい!」
芸人のキクラゲが、新人マネージャーの晴香を怒鳴った。
「申し訳ありません」
晴香はキクラゲを担当しているが、キクラゲは気難しい芸人だった。芸人の世界では、『尖っている』と形容するらしい。キクラゲは、まさに尖っていた。
「ただキクラゲさん、作家やスタッフさんへの態度をもう少し和らげてもらえませんか」
「なんで笑いの才能ない奴にへえこらせなあかんねん。ええか、この世界はおもろい奴が絶対なんや!」
キクラゲは終始その調子だった。
ある日キクラゲに会って、晴香はたまげた。げっそりと痩せて、顔と目が細くなり、心なしか頭の先端が鋭角になっていた。
「どうされたんですか?」
「芸人として尖ってきたんや。ええこっちゃ。コンビ名を『アイスピック』にすんで」
キクラゲが不気味に目を輝かせ、晴香はぞっとした。
漫才の賞レースに専念すると、キクラゲは家に閉じこもり、一歩も出てこなくなった。
ある日、チーフマネージャーからこう報告された。
「キクラゲは芸人を辞める」
晴香は息を呑んだ。
「どうしてですか?」
「折れたんだ……」
ストイックに自分を追い込みすぎてしまったんだ。
「心が折れたんですね……」
「心じゃない」
「じゃあ何が折れたんですか?」
信じられないという面持ちで、彼が答えた。
「どんどん尖りすぎて、
顔がポキリと折れた」
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければサポートお願いします。コーヒー代に使わせていただき、コーヒーを呑みながら記事を書かせてもらいます。