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博士がタイムマシンを発明した動機がおかしかった件−たった1分で読める1分小説−

「博士、ついにタイムマシンが完成しましたね」
 感極まった助手が目を潤ませ、博士が安堵の表情を浮かべた。

 二人の目の前には、カプセル型のタイムマシンがあった。
 博士の髪は白くなり、皮膚はたるんでしみやしわも多い。

 博士はタイムマシンを作るために、五十年あまりの歳月を費やした。
 博士の胸のうちを想い、助手は目の奥が熱くなった。

「博士、このタイムマシンでどの時代に行かれるのですか? もしかして歴史を改変されるのですか」

 助手がワクワクと尋ねると、博士が目尻をゆるめた。
「君には、私がタイムマシンを作ろうとした動機を教えてなかったな」
「はい」
「サルノコシカケを知ってるかな?」
 予想外の問いに、助手はとまどった。

「たしかキノコですよね。猿が腰掛けられる椅子のような形の」
「そうだ。私はサルノコシカケが大好きなんだ。だが一方で、猿がこの世で一番嫌いだ」

 博士がギリギリと歯を鳴らす。
「あの愛らしいキノコが、サルノコシカケと呼ばれていることが我慢ならない。おそらく過去に猿がキノコに腰掛けるのを見て、誰かが命名したのだろう。バカな奴だ」

「……それとタイムマシンとどう関係が?」
「その最初に座った猿を阻止して、私が座る。そうすれば名前が改変される。そのためにタイムマシンを作ったんだ」

 そして博士はタイムマシンに乗り、過去に旅立った。
 助手はぽつりと漏らした。

「めっちゃ変な動機……」


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浜口倫太郎 作家
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