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枯山水−たった1分で読める1分小説−

「これが、枯山水ですか」
 牧野は小田の誘いで、彼の庭に訪れた。
 広々とした日本庭園で、わずかな植物と石や砂で構成されている。

 小田が、目を細めてうなずいた。
「ええ、枯山水とは水を使わず、砂や石だけで自然の美を表現した庭園です」
「たしかに砂が湖の波紋のように見えますね」
「はい。自然だけでなく、中国の故事なども表現されます。私はこの枯山水こそが、究極の芸術だと考えています」

「はあ、なるほど」
「この庭を見て他に何か感じませんか?」
「何かあの部分が涙に見えますが……」 
 小田が声を強めた。
「そうです。これは私がペットを亡くした悲しみを表現しました。私は枯山水で、感情の表現がしたいのです」

 小田は枯山水の才能があるのか、多種多様な感情を表現できた。寝食も家庭も忘れて枯山水に没頭していた。

 そんなある日、牧野は庭を見て驚嘆した。
 綺麗に整えられた庭がグチャグチャになっていた。まるで猛獣が暴れ回ったようだ。
 そこには濁流のように荒れ狂う感情が描かれていた。

「これは素晴らしい」
 小田の枯山水は、とうとう至高の域にまで達したのだ。

 牧野が感動していると、小田があらわれた。
「これは一体どんな感情を表現されたのですか?」
 そこで牧野は気づいた。小田の顔が赤く腫れている。
「……どうされたんですか?」
 小田がしょんぼりと答えた。

「枯山水に没頭しすぎて妻が激怒して、

枯山水をめちゃくちゃにしました」


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浜口倫太郎 作家
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