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エスコートキッズ−たった1分で読める1分小説−

 勇作は、サッカー選手だ。

 このチームのエースで、今日は優勝を決める大事な試合がある。
 ライバルである相手チームも、この試合に勝てば優勝する。まさに天下分け目の決戦だ。

 だが勇作はメンタルには自信がある。どんな大舞台でも平常心で挑める。
 エスコートキッズがやってきた。サッカーの試合では、子供と一緒に入場する。その子供をエスコートキッズと呼ぶ。

 勇作の相手は、可愛らしい女の子だった。
「パパ、頑張ってね」
 勇作が苦笑する。
「僕は君のパパじゃないよ」
「パパだよ。私のママが、パパに内緒で私を産んだの」
 子供らしくない冗談だ。
「じゃあママの名前は?」

「新垣千春」
 勇作は心臓が止まるほど驚いた。それは昔の彼女の名前だ。
 じゃあこの子は、本当に俺の子供なのか……。
 もし妻や世間に露呈したら、家庭もサッカー生命も終わりだ。
「心配しないで。ママは誰にも言わないって。ママはね……」
 そう彼女がクスクスと笑った。

 試合後、相手チームの監督とコーチが話していた。
 監督がうなった。
「あんなできの悪い勇作、見たことないぞ。顔が青ざめていた」
 試合は勇作が絶不調で、勇作のチームは大敗を喫した。

 コーチがにやりと笑った。
「作戦が見事に成功しましたね」
 勇作を動揺させるため、コーチが子役を雇ったのだ。勇作の過去を調べて、嘘のストーリーを作り上げた。

「これぞエスコートキッズの新しい使い方です」




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浜口倫太郎 作家
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