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奈落と深淵

ここは地の底の国。

そこにて、壮大な議論が行われていた。

奈落ゲヘナの方が、ヒトを葬り去るにはちょうどいい。深淵アビスなんて、我々も飲み込まれてしまうではないか!」

「いや、深淵アビスの方が、我々同族に裏切り者が出た時に、処罰できるではないカ。」

彼らは人間。

奈落とやらをやけに強く支持している、茶色い外套コートをまとった男  ゲヘナが、やけに攻撃的な視線になり、もっているボロボロの杖を掲げた。

「この…………ッ!奈落ゲヘナに突き落としてやろうか!古代魔法エンシェント奈落ゲヘナ!」

「おっと、怖いねエ。」

一方、黒い法衣ローブをまとった男  アビスが、余裕そうな顔で攻撃を避けた。

いや、避けたのではない。

目の前の空間を、別の空間と繋げ、移動したのだ。

両者ともの実力は互角。

議論が、戦いになってしまった。

奈落へ堕ちろフォール・インテュ・ザ・ゲヘナ。」

「深淵はすべてを飲み込むんだゼ?その程度の攻撃が効くと思うかイ?」

一見するに、アビスの方が有利だ。

だが、ゲヘナの方も負けてはいない。

「金輪奈落。地獄の底へ堕ちるがいい。」

これにはさすがに、深淵も飲み込めないようで、逆に深淵が飲み込まれた。

だが、アビスの方は、まだ笑顔を崩さない。

「どんなときにも、冷静で、笑顔でいようネ。ちょうど君のようなコドモじゃあ、強くなれないヨ。」

「黙れぇぇ!」

ゲヘナが、ブチ切れた。

魔法をバンバンと撃ち、ハァハァと荒い息をつきながら、ついに魔力を枯渇させた。

「バァカ!冷静になろうって言っただロ?魔力枯渇になった奴は、美味くねえから、喰えねえカ。」

喰らわれるのは、イヤだ。

絶望の色に染まった彼の脳内に、声が響く。

魔力枯渇状態に特定回数なったため、種族が進化します。種族は、ランダムです。)

「ガアアアアアアァ!」

理性が、失われていく。

(あなたはパイアの猪になりました。この力を使い、敵を打倒してみましょう!)

パイアの猪?

テュポーンとエキドナのあいだに生まれた、あのかい物?

このチカラ、つかって、 かって、 かいま って る!

もう、彼に人間としての知性は残っていない。

「マジで何なんだよ。急にでっけえ猪になりやがったぞ。」

ただ巨大さを生かした、突進をした。

それだけで、アビスはつぶれた。

  のではない。

彼の分身ドッペルゲンガーが、殺されたのだ。

アビスは、分身ドッペルゲンガーを数体展開し、その中に紛れた。

だが、パイアの嗅覚は鋭い。

すぐに本物を見つけ出し、大きな口で、喰らった。

紅い血が、流れ出す。

その時、アビスの声が響いた。

腹の中から・・・・・

数秒後、パイアがのたうち回った。

パイアは、その原因となっているものを吐き出した。

アビスだ。

アビスが、胃の中を殴り続け、欠損させたのだ。

「一寸法師作戦、大成功だゼ!次は真正面から殴ってやるカ。ズルして勝とう、っていうその腐った精神を叩き直してやらないト。」

大きな牙にかみつかれたはずだが、再生している。

パイアは本能的に、やられる、と思った。

あれは、ニンゲンの枠を超えている。

元ゲヘナ今パイアの腹に、鉄拳が叩き込まれる。

「ちょっと人間の枠を超えたからって、いい気になるなヨ。冥途の土産に教えてやル。私の能力は、【深淵】ではなく【屍】ダ。死の使いとして、お前に死を宣告する。」

死を宣告された彼は、死んだ。

彼は、エモノを見つけるために、さらなる道へと進んだ。


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「ウラムゾ、ウラムゾ。アイツノセイデ、キノウガツカエナクナッタ!」

創造神は、亜空間で、喚いていた。

バリュートに完敗し、機能をほとんど失ってしまったのだ。

そんな創造神の前に、何者かが現れる。

「魂の契約をしようか。わらわなら、お主の機能を取り戻せるぞよ。」

魔神だった。

機能をすべて失ってしまった創造神には、魅力的な提案に聞こえただろう。

創造神は、こう言った。

「タマシイテイドナラ、ランコデモヤルワ。ワレノチカラヲトリモドシテクレ。」

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