理念浸透の方法|必要性や方法論、注意点を解説
目次
企業理念の浸透は、企業の持続的な成長と発展のために不可欠です。また、理念を浸透させることで、組織における一体感の醸成につながります。
しかし、理念浸透は簡単ではありません。理念を掲げるだけでは、社員は十分に理念を理解したり、共感したりすることができません。そこで本記事では、企業理念の浸透について目的と必要性を整理した上で、具体的な方法と注意点を紹介します。
理念浸透の目的
企業理念を浸透させる目的は、自社にとって望ましい組織文化を形成し、企業理念の中身にあたるミッション、ビジョン、パーパスを実現することです。
それぞれの関係性を示すと、ミッションとビジョンは、社員が共感し、目標とすべきものです。バリューは、ミッション、ビジョン、パーパスを実現するために求められる価値観・行動規範にあたります。
バリューを体現し続けることによって組織文化が醸成された結果、ミッション、ビジョン、パーパスに近づけるという関係です。
ただ一方で、「苦労して企業理念を作ったが、なかなか浸透しない」という悩みを抱えている企業が非常に多いのが実情です。浸透しない状態は、社員が企業理念に沿った思考や行動を取れていないことに他なりません。
身も蓋もない話ですが、企業理念を「作る」よりも「浸透させる」方がはるかに難易度が高いのです。
企業理念が浸透しない主な理由として、以下のことが挙げられます。
企業理念には会社として社員としてのあるべき姿が描かれているが、「どうすればそうなれるか」はどこにも書かれていない
経営陣や幹部社員を見ても、企業理念通りに行動できているようには思えない
企業理念に書かれている通りの行動を取ろうとすると軋轢や抵抗が生じる(例:挑戦せよと書かれているので新規事業のアイデアを提案したら即却下された)
上記のような問題を発生させないためにも、具体的にどのような行動が企業理念に沿ったものなのかを示さなければなりません。加えて、その行動が社内で高く評価されるための制度や、文化を整えていく必要があります。
そして何よりも重要なのが、経営陣が自ら率先してバリューを体現することです。
組織文化とは
理念浸透において組織文化は非常に重要なポイントになるため、組織文化について少し解説します。
組織文化とは、自然ににじみ出てくる自分たちらしい行動や考え方のことです。つまり、組織で働く人たちがある場面において「こういう時はこういう判断するよね」「こういう時は、こういうことを大切にするよね」といった共通認識ともいえます。そのため、同じ場面であっても組織文化の違いによって、その会社で働く社員の意思決定が異なってきます。
例えば、新しく配属された新人のAさんは、やる気はありそうですが少しのんびりしており、仕事を覚えるのは遅いようです。そんな時、上司のあなたにスピード対応の求められる重要な新規顧客の仕事が舞い込んできました。あなたはどちらの意思決定をしますか?
この仕事はAさんにとって良い成長機会になるし、やる気も上がると思うので、Aさんに手伝わせよう。
この仕事は新規取引先の重要な仕事であり、必ず満足させなくてはいけない。もちろん経験豊富なFさんを使うべきだ。
1の意思決定はこの機会を育成機会と捉える傾向が強いのに対し、2の意思決定は、成果を出すことに重きが置かれています。
このように理念を浸透させることにより、自社の目指すミッション、ビジョンに近づくにふさわしい行動・判断を行えるようにして組織文化を形成していくのです。
そして、望ましい組織文化を形成するカギとなるのは組織長が日々行う意思決定や言動です。作りたい組織文化を醸成するために、どのような意思決定や、言動が望ましいのかを行動レベルで理解し、それを体現する必要があります。組織長たちが体現していなければ「良いこと言っているけど、結局口だけだよね」となってしまいます。
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理念浸透の方法
理念浸透の方法について、具体的にどのようなステップで浸透させると良いかを4つのステップに分けてお伝えします。
ステップ1:知る&共感
「知る&共感」を促す必要性とポイントをご紹介します。
理念完成までの追体験と対話
企業理念を作った人と、作られたものを聞いた人との間で認識のギャップが生じがちです。
作った側は、過去の経験や大事にしてきたこと等の多くの前提を踏まえて、練りに練って企業理念を作り上げます。一方、聞いた側は、できあがったシンプルな言葉だけ聞かされるため、出来上がった言葉からは解釈しきれず、理念ができあがった背景や文脈を取りこぼしてしまうのです。
こうなると、理解は促せるものの共感までには至らないといったケースに陥ります。共感や腹落ちまで促すためにも、社員一人ひとりが理念を表す言葉の背景にある原体験や想いを「追体験」するとともに、「対話」を通じて、自分事化するプロセスが大切です。論理だけではなく、感情にも訴えかける企業理念を論理的に説明しても、あくまで頭での理解に留まります。本当に企業理念が浸透し、組織の力となるためには、感情に訴えかける必要があるのです。
例えば、創業者が、自分自身が経験した失敗や挫折から、同じような苦しみを他の人に味わってほしくないという思いで、企業理念を掲げたケースは少なくありません。創業者が企業理念を掲げたきっかけや、企業理念を実現するために苦労したエピソードなどを語ると、企業理念の持つ意味や価値がより伝わりやすくなります。
企業理念には、創業者などの理念を作った方の強い想いや熱意が込められています。そのため、企業理念を語る際には、個人的な短いストーリーを織り交ぜながら理念について語ると、社員一人一人の感情により強く訴えかけることができます。
ステップ2:わかる
企業理念の「わかる」を促進するためには、バリューの体現イメージを共有することが重要です。
企業理念の「わかる」とは、自分の言葉で企業理念を説明でき、体現する姿がイメージできている状態を指します。企業理念を理解していても、具体的にどう行動すればよいのかイメージできなければ、絵に描いた餅のままになり、望ましい組織文化を形成できません。
バリューは、企業理念を実現するための行動指針です。そのため、バリューの体現イメージを共有することで、企業理念の「わかる」を促進できます。例えば、社員の行動事例を共有する、バリューを体現した取り組みを表彰するなど、さまざまな方法でバリューの体現イメージを共有することができるでしょう。
ステップ3:習慣化
習慣化とは、繰り返し行うことで、意識しなくとも自然と行動できるようになることを指します。企業理念を浸透させるためには、理念を繰り返し思い出し、実践する機会を提供する仕組みが必要です。また、組織のリーダーがバリューを体現し、社員に示すことでも、習慣化を促進できます。
この習慣化を促す具体的な方法論としては、以下のような観点で定期的な評価を行い、振り返るキッカケを与える手法があります。
組織の評価:評価対象を所属組織にして、企業理念が浸透しているのか診断する
個人の評価:評価対象を個人にして、バリューを体現しているのか診断する(360度サーベイなど)
ステップ4:結果が出る
望ましいバリューを社員が体現できるようになると、望ましい組織文化が形成され、ミッション、ビジョン、パーパスの実現により自然と近づくことができます。
理念浸透に関するよくあるご質問と注意点
理念浸透に関するよくある質問と注意点を、3つ紹介します。
バリューを浸透させるために、マニュアルを作るのは有効ですか?
答えはNOです。マニュアルによる浸透は、社員がマニュアルに書かれた行動だけを行うようになるリスクを伴います。マニュアルに従って行動するだけでは、思考停止に陥り、本質を理解したり、自ら考えたりする機会が失われます。
理念浸透においては、社員の主体性を重視した取り組みが重要です。社員が自ら考えて行動するようにするためには、マニュアルではなく、理念に対する理解と実践の両方を促進する取り組みが必要です。
理念は一言一句覚える必要がありますか?
理念を覚えることは、あくまでも手段です。理念を覚えていなくても、その背景や意味を理解していれば、行動に移すことができます。理念を体現できていれば、理念を一言一句覚える必要はありません。
まずは理念だけ掲げておこうと思うのですが、それだけでも実施する意味はありますか?
浸透施策を考えず、理念だけ掲げるのはお薦めしません。理念を掲げるだけでは、社員が理念を真に理解したり、理念を腹落ちさせたりするのが困難です。また、理念を掲げて、それを経営陣が体現していないと言動の不一致という見られ方をされ、経営層に対する不信感やエンゲージメントの欠如を招く恐れがあります。
まとめ
企業理念を浸透させることは、企業の成長や発展のために不可欠なものです。しかし、単なる理念の作成だけでは、浸透は難しいでしょう。
そこで、企業理念を具体的な行動に落とし込むことで、社員が目指すべき姿が明確になり、行動に移しやすくなります。また、経営陣や幹部社員が企業理念に沿った行動を率先して示すことで、社員への模範となり、浸透を促せます。
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