怖い話「レインコート」

小学生の頃の話。

当時塾に通っていたぼくは、チャリで10分くらいかけて通学していました。
夜に帰る時なんかは田舎なもんでけっこう暗くなるんですけど、中でもそこそこ細い路地を通らなきゃいけないところがあって。
商店街みたいな感じなんだけど、両サイドは店もあればただの民家もあって、あと教会と寺と神社がそれぞれすぐ近くにあるっていう、けっこう変な道。そのくせ人通りはすごく少なくて街灯もろくにない。
けっこう危ないんだけど、ぼくはわりと毎回、その道をかなり急いで通っていました。

さてある日、いつものように授業を終えて、その道を通ろうとしたんです。だいたい、夜の10時くらい。
そしたら、晴れてるのにレインコートみたいな服を着て、フードを被った人が、ちょうどお寺のすぐ前あたりに立ってたんです。
で、歩いてるわけでもなく、そこにじっと立っている。

めちゃくちゃ怖え! と思って。
幽霊かもしれない、とか、子供の頃のぼくは思ったわけです。そうでなくても、夜中にぼーっと立ってる人、しかも顔も見えないような状態の。そんなの怪しすぎますから。
ぼくは立ち漕ぎで、急いでそこを通り過ぎることにしたんです。一応道幅は自転車どうしでも簡単にすれ違えるくらいにはあって、その不審な人も寺のすぐ前、ぼくから見て道の右側に立ってたから、左側に寄っていけばいいだろうと思って。
大急ぎでそこを通り過ぎ、路地を抜けてそこそこ大きな道に突き当たったところで。
振り返ったんです。追いかけられていないかって。

結論から言うと追いかけられては居ませんでした。その人はそこに立ったまま、じーっとしていました。

ただ、ね。
フードを被っている、って最初の段階でわかったってことは、たぶん通り過ぎる前はこちらを向いていたんだとおもいます。
通り過ぎた後に振り返ったら、こっちを見ていたんです。フードの向きからして、完全に。
シルエットの顔のあたりがわずかに動いていて、声は聞こえないんだけど、何かを喋っているみたいでした。
だけどまあ、ぼくには何も起こらなくて、そのまま家に帰って急いで布団に潜りました。

で。

この話には後日談があって。

そんで、また、塾の日。
火曜と金曜に通ってて、たしかこの時は金曜だったとおもいます。だからその人を見かけたのは火曜日ですね。
例の路地に差し掛かったんですよ。そして、例のお寺の前を通った時。
ちょうどそのあたりに、花束がいくつか、置かれていたんです。

そこで何があったのかは知りません。結局わかんないんです。昔の話だし、ぼくも小さかったし。
ただ、その花束を見て、思ったんです。
徒歩で通学してなくてよかったなあ、って。