映画【WALKING MAN】言いたいことを言える自分に、
言いたいことも言えない世の中
映画【WALKING MAN】
日本を代表する実力派人気ラッパー・ANARCHYの初監督作品。
吃音症で人と会話するのが苦手な青年アトムがラップと出会い、人生が変わるハートフルで刺激的で、それでいて爽やかな物語。
主演には「ちはやふる」など
人気作に多数出演する野村周平。
監督であるANARCHYとマンツーマンでラップの特訓を行い、絶妙な言葉たちを軽やかでこっくりとしたリズムに乗せて紡ぐ野村さんのラップが堪能できるのがひとつの魅力。
STORY:川崎市の工業地帯で母と妹と暮らす佐巻アトム(野村周平)は幼い頃から吃音症で人と話すことが苦手。不用品回収業のバイトで生計を立てながら過ごす日々を送る青年だった。そんなある日、母が事故に遭い寝たきりの状態になってしまう。母の保険料滞納に苦しむ日々の中、バイトで訪れた不用品回収先で偶然に見つけたカセットテープを再生すると、世間への不平不満をビートに乗せたラップが流れた。アトムはそこでラップとの運命的な出会いを果たし…
◯それぞれにハマるもの
不幸、自己責任、他人事、見て見ぬ振り。
私たちが生きているこの世の中って、
思っている以上に冷たいものなのかもしれません。
主人公アトムは、
内気で吃音症のために自分の言いたいこともしっかり言えない。
思春期の妹からはダサいと思われていて
アトムをよく知らない人間からは馬鹿にされる日々。
もどかしさだけが溜まっていくなかで
偶然出会ったカセットテープによってアトムは自分を解放していく…
人が変わるきっかけって、
ほんとうに些細なことなんですよね。
何を見たから、とか
何を聞いたから、とか
何を知ったから、とか。
無理やり吸収しよう、とかじゃ無理で
やっぱり自分にぴったり「ハマる」ものって存在する。
それがアトムにとってはラップだった。
ラップ、HIPHOPって
普通の音楽や歌とは違い絶妙なビートと言葉数、それに本人のリズムセンスがかなり現れるごまかしが一切利かないもの。
あまりラップに馴染みのない人間が聴くと
ただただ、言葉のリズムやビートに呆気を取られてしまうけれど
ちゃんと聴くと、めちゃくちゃアツい言葉があったり自分の恥ずかしい部分、つまり心を裸にして表現しているんですよね。
歌には歌詞が存在するけれど、
大抵の歌詞ってどこか綺麗ごとのように思える言葉が飛び交っていたり
私たちの希望を込めたわりかし小綺麗な言葉が並んでいる。
良い意味でも、悪い意味でも、ね。
歌詞は私たちに夢と現実を見させてくれるものだから。
けれど、ラップって
思っている感情に衣を着せず、そのままをビートに乗せて発している。
裸んぼのまま。
先のことはわからない。
その言葉たちは今を生きている。
ツイてない時
ムカつく時
心の中で再生されるありのままの言葉が
頭の中で何の審査も通らず喉からこぼれ落ちるアレが
ラップだと思う。
私自身も、そこまで詳しい方ではないけれど
周りの人間でラップが好きな人たちをみると、
「正直に生きたい人だ」
と感じる。
中にはワルがいるかもだけれどラップに惹かれる人間はみんな、
自分に正直でいたい人たちだ。
◯言いたいこと言うこと
アトムはラップと出会い、
徐々に今までの自分を壊していきます。
気になったラップバトルの会場に足を運んだり
そこでステージにあがったり。
最初は上手くいかない。それでも諦めない。
これが、一番難しい。
けれど
アトムは出会ったラップと真摯に向き合い
数取器をカチカチと鳴らし、自分なりのビートをつくって心の中にある言葉を一生懸命に口に出していく。
彼は吃音症という生まれつきのものがあって
言いたいことをなかなか上手く言葉にできないキャラクターだが
私たちはどうだろう?
言いたいことは言えているだろうか?
きっと、ほとんどの人は言えていないと思う。
言いたくても、規則や縛りで声すら出せない人間もいるだろう。
私だってそうだ。
自分の本音を、思っていることを、簡単には言えない。
しかし、口に出さなければ何も変わらないと
主人公アトムの姿を通して、この作品は教えてくれる。
今までほとんど喋らなかったアトムが
少しずつ喋るようになって、自分の意思を出していくようになって
周りの人間はアトムを感心し、認めてゆく。
人が人を認めるだなんて、
おかしな話だけど。
私たちが生きている世界というものは
人と人の認め合いで成り立っていて
認証からはじめて、愛というものが生まれるのだと思う。
◯個性的なキャスト、音楽と人間
縛り付けられる世の中
音楽との出会いで人生が180度変わる青いこのドラマ。
キャストは主演の野村周平さんのほかにも
パンチが効いていて、尚且つ実力派のキャストが出演されています。
思春期真っ盛りの妹・ウランを演じた
「あまちゃん」「ママレード・ボーイ」などの
優希美青さんの妹らしいわがままとかゆい場所に手が届かないようなもどかしい感情を爆発させた演技はかなり観ていて作品を締める要素があるなと思いました。
アトムのバイト先の先輩・山本を演じた
柏原収史さんは明るさや優しさの中に隠している自分の深く暗い闇をぷんぷん匂わせていてとても良かった。
大御所であり、かなりこの映画の中でもスパイスを効かせていた
石橋蓮司さんは出演シーンは少ないものの、現代にはびこる「隠蔽」を演技と風格でそっとなぞってくれていました。
ほかにも
劇中には人気ラッパーたちが多数出演されています。
T-Pablow,WILYWNKA,サイプレス上野…など
泥臭くて、薄汚くて、
それでいて爽やかで、熱くって、アツい。
音楽が私たちに与えてくれている力と
私たちが生まれ変われる勇気をくれる、
そんな映画です。
10月11日(金)から
全国ロードショー!
変わるきっかけが欲しいひと
人間の有志を見たいひと
ラップが、音楽が好きなひと。
ぜひ劇場へ、足を運んでみてください。
DJかませ〜っ!
では