クラシックカメラとの出会い(1)
1998年秋。私は会社の先輩に連れられ、浜松町のカメラ屋さんへ向かった。古いビルへ辿り着く。階段を上がっていく先輩の後ろにぴったり連いていく。まるでお化けがでてきそうな、こわ~い感じのビルだったから。先輩がお店の扉を開けた。お店に一歩足を踏み入れた。
「んっ? なんだーーーっ!ここは!!」驚いた。と、同時に「東京に来て半年。やっと私の居場所が見つかった…はぁ..よかった..」瞬時に感じた。やっと..やっと..見つかった..。
そこには、ショーウィンドウに飾られたカメラたちでいっぱい!昔ながらの機械式のカメラが目に飛び込んでくる。一体いつの時代に迷い込んじゃったの? こんなカメラ見たことがない!
私は一周ぐるりと店内のカメラたちを見た。もう一周ぐるり。沢山あるカメラの中で、一台気になるカメラがあった。目がバチッと合う。「なんて素敵なデザインなの!ペールグリーン色に銀のパネル、赤いボタン!あぁこの赤。俄然気に入ったわ。」このカメラを見せていただこう。
先輩と話し込んでいる年輩男性の方がいた。ちょっと近寄りがたい感じの年輩男性。その方こそ、このお店の社長だった。
「こちらのカメラを見せていただけますか?」
社長は黙って、ショーウィンドウを開けて、カメラを見せてくださった。
カメラの前のカバーを引き上げたら、レンズとファインダーが現れて、上から覗きこむと鏡の向こうに店内の景色が見えた。(後にブリリアントファインダーという簡易なファインダーだということを知る)
私は上から覗き込んだ。うわぁ。向こう側の景色が見えてる!普通のカメラと違うよっ。なんなの?このカメラは?何度も何度も上から覗き込んだ。いろんな角度から景色を見て歩いた。
「このカメラを買わせてください!」一目惚れだった。私はこのカメラを即決購入した。
カメラの使い方を一通り、社長が教えてくださった。しかし。正直なことを言うと、説明を聞いてもよく判らないでいた。このカメラは私のところに来るべくして来たんだ。一目惚れとはそういうものだ。
嬉しい!なんて素敵なカメラなの!
カメラの名前は「アンスコフレックス2型」高明なインダストリアルデザイナー、レイモンド・ローウィが手がけたデザインだということも後に知った。
無口な社長だなぁと思っていたが、私は社長と意気投合。帰り際「またいつでもおいで」と言ってくださった。
日々会社へ電車で通い、仕事をして、電車で帰る。そんな日常の繰り返し。東京に馴染めずにいた私が初めて「ここが私の居場所だ」と思える場所が見つかったのだ!記念すべき日。
「クラシックカメラ」私はこのカメラたちをそう呼ぶことを知った。なぜ「クラシックカメラ」に囲まれているだけで、こんなに心が落ち着くんだろう。昔の物たちに囲まれている安堵感。デジタル機器と日々格闘している私にとって、アナログカメラたちは、とても新鮮でホッとできる存在だった。
カメラたちの生まれも、ドイツ、イタリア、アメリカ、フランスなど。もちろん日本も!様々な国からここへやってきたんだなぁ。
この日の出来事は今でも私の心のネガにしっかり焼き付いている。いつでも取り出すことができる。
先輩のおかげで社長に出会えた。私はこの日を境に、会社帰り、ほぼ毎日のように「クラシックカメラ屋」さんに通った。クラシックカメラのことなど、何も判っていないのに、こんな私を快く受け入れてくれた社長。社長に出会わせてくれた先輩。私は今でもお二人に感謝の念を持ち続けている。
一目惚れの「アンスコフレックス2型」このクラシックカメラは、ボックスカメラと呼ばれるものだということ、私の運命のカメラだということ..。この時の私は知る由もなし。
(つづく)
写真はアンスコフレックス。フラッシュガンがついていない方のカメラが2型だ。なぜ2台が並んでいるのか? それはまた別のお話し。
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