プロローグ

「警察への引き渡しこれで終わったね」ぼつぼつと降り落ちる雨粒をビニール傘で弾かせながら一条麻莉香は、パトカーの近くでふてくされた顔をしている銀髪の少年に言った。
「まったく、なんなんだあの売人は。異能力なんて全くつかってなかったじゃねぇか。事前情報と違うぞアルフリード」と、銀髪の少年。
「まぁ、そういうこともあるさ。誰も怪我人が出なかったのだからよかったじゃないか」と、アルフリードと呼ばれた赤髪の青年はパトカーから出て答えた。
一条麻莉香と銀髪の少年は赤髪の青年、アルフリード・オーフェン・ハールマンの職場、異能特別対策室異能課で校外実習をしていた。彼女らの通う聖壱里塚学園は、異能者たちの間では通称 "異能学園" と呼ばれており、たくさんの異能力持ちの人が様々な目的で在籍している。異能力持ちの生徒たちは異能力の勉強の一環として校外実習が義務付けられており、彼女たちもそうして校外実習を進めていた。

「さっ、校外実習の申請は出してあるが、もうあと少ししたら次の日になっちまう。あんた達はもう帰んな」アルフリードは右の手のひらをヒラヒラと振ると、麻莉香と銀髪の少年を帰るように促した------------

同じ頃、港の倉庫街でパトカーのサイレンのワンワンと鳴り響く音とチカチカと目が痛くなるような光が暗闇の中で悪目立ちする。倉庫の角からそちらを覗くとレモネード色のショートボブの髪に、緑地に赤い襟のセーラー姿をした少女とシャツに同じ色合いでチェックの柄の入った学生ズボンを身につけた銀髪の少年。さらにその奥に赤い長い髪を後ろでひとつに縛った別の制服姿の青年がいた。
遠くで彼らを見ながら深い青緑色をした長髪の男はまるで孫を見る様に微笑んでいた。
「先生。向こうに可愛らしい子どもたちが集まってますよ。やっぱりもう新学期の季節ですし新入生ですかね?」
先生と呼ばれた男は話しかけてきた男の方を見もせず眠たそうに大きなあくびをしながらさぁー?と、日本語になってない様な曖昧な返事を返す。
「ふぁー…って、オイオイ。そんなじっと見てないで早く引き上げるぞ。4月と言ってもこの雨の中ずぶ濡れになってると流石に凍えるわ」あー、さみぃと、まだあくび混じりに言葉を続けた。
あくび混じりで喋っている先生と呼ばれた男の言葉を上書きするかのように「ん?今、目が合った…?」と、長髪の男が目をパチクリさせボソボソ何か言っている。
「ねぇ、先生。今、向こうの女の子私のこと見た!見ましたよ!ここからあそこまで100m 以上は離れてるのにすごーいねぇ!」まるで小さな子どものようにその場ではしゃぐ長髪の男を呆れたように見下ろし先生と呼ばれた男は軽く長髪の男の頭を叩いた。「あ痛っ!」と、その場で長髪の男は丸まって呻いた。呻く男に向き直り、先生と呼ばれた男は哀れみの気持ちを込めて
「ゆすら…。お前、探偵向いてないんじゃないか?」と、ひとこと言った。ゆすらと呼ばれた長髪の男ははにかんで
「そうかもしれない」と、返しふたりは何処かへ消えた。

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