奇談小話
東の果てに住む青年が聞いた話である。
その日も男は携帯端末を枕元に置き、就寝についた。
すると程なくして着信音が鳴った。男は飛び起き携帯端末を確認する。
「なんだ、もう朝かと思ったじゃないか」
寝落ちかけていた男は時刻を確認すると深夜1時。
着信音が鳴り止まない携帯端末に視線を戻す。よく見ると着信音は目覚ましのアラーム音ではなく発信元不明の非通知着信であった。
なんだか気味が悪くなった男は着信が鳴り止むのを待ってから再び就寝した。
朝、男はいつものように起床する。
深夜の出来事はきっと間違い電話だろうと思いながら仕事へ出かけた。
その後、不明の非通知着信はない。日ごとに男はすっかりこの事を忘れていった。
しばらくした頃、男は仕事が遅くなり、くたくたになって帰路に着いた。風呂にも入りこともせず一直線に布団へ入った。右手には携帯端末を握っている。男は次第に眠りについた。
『ジリリリリリリッ、ジリリリリリリッ』
着信音に男は慌てて発信先も見ず電話に出た。
「お疲れ様ですっ、○○です」
『ザザーッ、ガッ、ピーーッ…お疲レ様ですッ、○○デ…す……ザーッ…オツかレ様でスッ、○○です…オツかレさマで』
ノイズ混じりの声でうまく聞き取れないが、携帯端末から聞こえてきたその声は聞き覚えのある自分の声だった。
時刻は深夜1時。
男は怖くなりそのまま電話を切った。携帯端末の着信履歴を恐る恐る確認すると発信元はあの不明であった。
その日、男は朝まで眠れなかったという。
朝になり男は大急ぎで携帯端末番号を変え、今居る場所も引っ越したそうだ。それ以来、深夜の発信元不明の非通知着信はなかった。
男が引っ越した二日後、男が住んでいた場所で火事があったと後に男は知った。
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