マスク外したくない

顔、見られたくないなぁ……。
取ってみたら結局ブスなんだよ。
隠されてることに期待を込めて見てこないで。がっかりすることはわかってるでしょ。君が思う理想よりブスなんだって。
休憩を取ったのに視線がばっちり合っているので水が飲めなかった。
人に見られるのがつらい。イヤイヤ期をこじらせたようで。

マスクで覆われていると安心して話しているのに、外した途端に汚いもの見せちゃってる気分だ、落ち着かない。
あぁ。コロナには本当に助けられてたな。「見られたくない！」っていうおかしなレベルの拒絶感を隠して、普通のことにしておいてくれた。

頭の仕様上、現実が想像を下回ることは決定済みなのだ。
私は面長のしもぶくれ。マスクの下にシャープなモデル型とか愛らしいアイドル型を想像している方、「すみません、面長という型が世の中にはありまして…」と解説させてもらわなければ。

鼻筋がすっと通ったキレイな形にならないかな。鼻炎もひどいから中身も終わってるんだ、取り替えたい。歯並びも良くしたい。八重歯はとっちゃっていい。あと面長だよ。くちびるは、ちびまる子ちゃんに出てくるアイツみたい、あいつ・・・・・・
永沢くんだ！

鏡を置かないで、姿が見えるから。誰にも見られたくないのです。
手も、耳も、目も、足も、肩も。どうかしばらくひきこもらせて。

毛布で春巻きみたいにぐるぐる巻いて、ブリトーになってしまえたなら、外に出ても無敵だな、と思う。（春巻きじゃないのかよ）
バームロールの中に入りたい。
あのロール状の中身としてならどこへでも行けるし、オフィスにずっと座っていても集中できる。
近接攻撃のごとく男がすっとんで来て「凛子さん！」って言っても、「ハイっ！」と堂々と返事できますとも。
親しくない人に瞳をのぞき込まれても動じませんとも。
なにせ春巻きなのだから。（結局春巻きになるのかよ）

そういえばネットで伊達メガネを買ってみたのだ。
黒縁のまるい枠が顔を覆うことにより、「メガネの女」というカテゴリとして認識され、「個」というアラが薄れるかなと思って。

全然似合わない。どうしよう。くっそ。

アラが際立っとるやんけ。
本気出してお店まで出向けばよかったな。「嫌な予感したんだよなぁー」と後出しの第六感にひたってみる。
仕方ない。今日から私は新進気鋭のクリエイターにでもなるか。

確認のためにググったら永沢くんじゃなかった、藤木だったわ。
えーーだれ？そんな名前のやついたっけ？
とにかく藤木を太らせたような顔してます、マスク外しますと。

あーあ、
「マスクしてた方が落ち着く。」
「わかる。」
ぼやいた私にコンマ秒くらいの即答が飛んできた。
あなたは分かってくれるんだね。