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ショートストーリー「謎解きチャーハン」
「ねえねえ、英二、これ読んでよ!僕一生懸命考えたんだから。」
テーブルで向かい合って座る有が、俺に何か書いてある紙を渡そうとしてくるが、俺はそんなことより腹が減っている。
「ねえ、英二、これ読んでって。」
「わかってるが、先に飯にさせてくれ。」
ふわふわと良い匂いの湯気の立つ、うまそうなチャーハンを前に、おあずけは勘弁してほしい。
「本当にわかってるの?これ作るの大変だったんだから。」
「わかってるって。」
と言葉だけでなだめながら、俺は熱いうちに、とチャーハンをかきこむ。
口に入れると、ごま油と少しのニンニクが香る。米はパラパラしてるが、噛むとしっとりと旨い脂が染みていて、塩味がちょうどいい。大きめのゴロゴロしたチャーシューは、甘辛くて食べ応えがあって最高だ。
うまい。やっぱり有沢飯店のチャーハンはうまい。
ここ有沢飯店は、さっきから俺に話しかけてくる有の実家で、商店街にある中華料理屋だ。切り盛りしているのは有の母親と兄貴。店内は清潔で活気があって、繁盛している。
「有ちゃん、葉山さんはお仕事終わったばっかりなんだから、お食事の邪魔しないの。大人しくしてなさい。」と言って有の母親が有の髪をもじゃもじゃに撫でる。
有の母親は、俺を葉山さんと呼ぶ。色白のふくよかな女性で、もうすぐ29歳になる息子をとてもかわいがっている。俺は地元の眼科で働いており、今日は午前中で診療が終わって、昼飯を食べに店に来たばかりなのだ。
「じゃ、ママンがかわりに見てくれよ。」
有がふくれっ面で紙を母親に渡そうとしながら、ワガママを言っている。まったく、いくつになっても母親に甘えるところは、いかにも末っ子らしい。
「食べ終わったら俺が見るから、ちょっと待ってろって。」
有の母親の仕事を邪魔してはいけない。
昼時の有沢飯店は忙しいのだ。案の定、有の母親はすぐにお客さんに呼ばれて、テーブルに注文を聞きに行った。チャキチャキと手際よく働いている。
俺はチャーハンを平らげ、水を飲む。
「で、何を書いたんだ?」
俺は、有がさっきから見せたがっている紙を受け取る。
すると突然
「はっはっはー。僕は悪のテロリストだ!東京のある場所に爆弾を仕掛けた!この文章は、その爆弾を置いた場所を暗号にしてあるのだ!さあ、頑張って暗号を解きたまえ~!」
有が声色を変えて宣戦布告をしてきた。
どうやら、自作の暗号を俺に解かせたいらしい。自称ミステリー作家になりたかった男、有は、小説は全く書かないくせに、謎解きや暗号は大好きなのだ。
「はいはい。暗号ね。」
「あ、馬鹿にしたでしょ。マジでけっこう難しいからね。覚悟しないと爆弾爆発しちゃうからね!」
はいはい。仕方ない。俺は有の暗号解読ゲームに付き合ってやることにした。
「時間制限はあるのか?」
「えー、どうしようかな。じゃ、30分。」
「30分も店の席を埋めたら迷惑がかかるだろ。」
「大丈夫。そろそろ店、空いてくる頃だから。それより、早く読んでみて。」
はいはい。俺は有の書いた暗号とやらを見てみた。
青い空
谷を抜け
土の上
山へ雪
骨と梃子
皮膚よれる
枠は無視
刺せメロス
俺はゆっくり読み上げる。
「なんだ、これ。」
「ふふふ。意味わからないでしょー?だって暗号だもん。」
有は嬉しそうにしている。俺が悩んでいるのが面白いらしい。
「医者なんだから頭いいんでしょー?簡単に解けるんじゃないのー?」
「ちょっと待てよ、30分くれるんだろ?考えさせてくれ。」
ふふふ~と笑いながら俺を見ている有。
「東京のある場所に爆弾を仕掛けた、と言ったな?じゃ、これは東京のある場所を表してるてことだな?」
「そうだよ。ふふふ、ヒントいる?」
「いや、まだだ。」
俺はちょっと本気になってきた。謎というのは、煽られると解いてみたくなるから不思議だ。
「梃子、これは、読み方はテコでいいんだよな?」
「うん。」
「テコでも動かない、とかのテコだよな?」
「そうだね。」
【読者さまへ】
謎解きについて「自分で考えたかった!」と仰ってくださるフォロワーさまがいらっしゃいました。もしご自分で考えたい方のために、ここで一度休憩をはさみます♡考えなくて良いよ、という方は、どうぞ先をお読みください。
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「枠は無視…だから東京都内じゃないとか…あ、23区内じゃないってことか?23区の枠を越えるってことか?青い空も山も雪も土も、自然ぽいから、23区じゃない東京都、多摩地区とか。骨と梃子はよくわかんねえな。刺せ、メロス…メロス…お、ちょっと待てよ。走れメロスの作者、太宰治は、生まれは青森だが、死んだのは確か東京じゃなかったか?」
俺は有の顔色をチラッと伺う。ニヤニヤしているが、表情からは読み取れない。
それでも俺はその線で考えてみる。
「ちょっと調べてもいいか?」
スマートフォンを見せると有は「どうぞどうぞ」と余裕な顔。
検索すると、やはり太宰治の死没は現在の東京都三鷹市だ。墓地は三鷹市の禅林寺というところらしい。
梃子というのは、太宰治を当時評価した「変梃子(へんてこ)」という言葉をもじっているのか?
メロスが「走れ」ではなく「刺せ」なのは、死んだ、ということか?
三鷹市禅林寺というのが答えか…。
「早くしないと爆発しますよー!」
有がまた声色を変えて脅してくる。
解明できていないことのほうが多いが、ここは賭けだ。
「よし。じゃ、俺の行きついた答えは、三鷹市の禅林寺だ。」
どうだ?
「ぶっぶー!違います~!」
と言って、有は大げさに両手でバツを作ってケラケラ笑った。
なんだか悔しい。
「ちゃんと暗号読んでよー。ヒントいるなら欲しいって言いなよ~」
俺は悔しくなって、「いや、まだ時間はある。」と考えようとした。
【読者さまへ】
この先、解答編です。まだご自分で考えたい方はここでもう一度お考えください。考えなくて良いよ!という方は、先へお進みください。
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そのとき
「雷門。」
と声がした。
「へ?」
有が変な声を出して、俺の頭を越えて、うしろに座っている客のほうを見ている。
「暗号の答え、雷門ですよね。かみなりもん。」
振り返ると、白いシャツに黒いジャケットを羽織って、黒い細いネクタイを締めた、目つきの鋭い男が座っていた。若い女性と一緒にランチをとっていた様子だ。
「すっごーい。お兄さん、正解!よく分かったね!」
「すみません。会話が聞こえてしまって。つい考えてしまいました。暗号なんて言われると、解きたくなってしまう性分なもので。」
男は無表情のまま、そんなことを言う。
同席しているボブヘアの優しそうな女性に「食べ終わっても何も喋らないと思ったら、他のお客様の会話聞いてたんですか?」なんて言われている。
「お兄さん、すごいよ。この暗号、1回聞いただけで、紙もペンもなしに正解できるなんて!」
「文字数からして、そんな感じかな、と思いまして。楽しそうにしてらしたのに、お邪魔してすみません。」
「全然!すっごーい。解いてもらって嬉しいよ!」
「それなら良かったです。では、失礼します。」
終始無表情の男は、食事はもう終えていたようで、暗号を解くだけ解くと、同席していた女性と一緒に帰ってしまった。
有は楽しそうにケラケラ笑いながら、「マジで天才かも、すげえ。」と感嘆している。
「すげえのはわかったから、俺にも教えてくれよ。何で答えが雷門なんだ?」
「え、英二、答え聞いてもまだわかんないの?」
「わからん。」
悔しいが、全くわからない。
「っていうか、紙もペンもなしで、頭の中だけで解けたあの人が異常だよ。」
「だから、何で雷門なんだ?」
ふふふと笑う有。
「教えてあげなーい。」
なんだと!
「この紙あげるから、何で答えが雷門になるか、宿題でーす。わからないと、爆弾が爆発しちゃいまーす。」
気に入っているのか後半からまた声色を変えて、ケラケラ笑っている。
悔しいことに宿題を出されたが、宿題と言われても同じ家に帰るのになあ、と苦笑した。
有が楽しそうにしているし、チャーハンがうまかったから、まあ良いか、と思う昼下がりであった。
《おわり》
みなさんは有の暗号、解けたでしょうか?
メロスから太宰治に絞ってしまった英二は、有のミスリードにまんまとハマっていましたね笑。
解き方は、日本語の46音を使って、アナグラムにして、有が書いた暗号を作ります。
すると、「かなみもりん」が残ります。残った「かなみもりん」をまたアナグラムすると「かみなりもん」答えは「雷門」でした!
もともと書いていたアナグラムを使った暗号のショートストーリーで、もっとあとに投稿する予定でしたが、「アナグラム詩」というものが流行りだし、 #アナグラム歌会 なる企画が始まっていたので、投稿しました(^^)
本当はこれと別のアナグラム詩を作ろうかとも思ったのですが、企画で書くことによって、小説を知ってもらう機会にもなるかな、と思い、のっかりました笑。
企画はみえるさんの「アナグラム歌会へのお誘い」↓↓↓
みえるさん、はじめまして。
企画の趣旨とだいぶ違いそうですが、楽しそうなので、参加してしまいました。失礼いたしました。もし趣旨とあまりにもズレていたら、外してください。
よろしくお願いします。
おわり
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