企画参加:五年後十年後の理想②/紅茶と蜂蜜さん企画
【りんこさん、長編進んでますか?】
【あ、はい、まぁまぁいい感じです】
【お願いしてた、ミステリーアンソロジーの方はどうですか?】
【ああ、そっちも何とかプロット練れたので、何とかなりそうです】
【良かった。今回は結構著名な先生方とのアンソロジーなので、気合い入れてくださいね】
【プレッシャーかけないで下さいよ】
【いやいや期待してるって事ですよ】
【まあ、何とか頑張ります】
編集者さんとのチャットを閉じて、私は冷めたミルクティをひとくち飲む。書き下ろしの長編とミステリーアンソロジーの短編。今抱えている仕事はその二つ。細々とだけれど、デビューから途切れることなく、小説の仕事ができているのはとても嬉しい。
担当の編集者さんとの相性がよかったのかもしれない。私の良さを伸ばしてくれる、いい人に巡り会えたと思う。そんな人との出会いに感謝しながら、ノートパソコンを開く。
編集者さんには順調みたいなことを言ってしまったけれど、長編の結末に悩んでいる。手が止まったまま、しばらく宙を眺める。新しくて斬新なアイデアなんて、そうそう降ってこない。頭の中にいる登場人物たちが何をしてくれるか、動いてくれるのを、私は待つしかない。
数行書いたところで雨音に気づく。いけない、洗濯物干したままだ。急いで取り込もうと階段を駆け上がると、猫が足元にまとわりついてきた。
「ごめん、ごめん、ちょっと待って、今急いでるから」
急いで洗濯物を取り込んで、猫を抱きかかえる。
「午後から雨って言ってたのにね。忘れてた」
静謐な雨は真っ直ぐに落ちて、私はペトリコールを吸い込む。猫はぐるぐると喉を鳴らしながら私の顎に額を押し付ける。猫は、いつも温かくて柔らかくて、私は気持ちが落ち着く。
猫。猫か。
長編の結末は猫を絡めてもいいかもしれない。前半に猫が出てくるし、謎を深めて、その伏線回収みたいな形で終わらせるのも面白いだろう。そうなると中盤にもう一回ぐらい、猫を出したい。私は抱いていた愛猫を床におろし、またパソコンに向かう。
うん。猫を絡めた結末で何とかなりそうだ。頭の中の猫がしなやかに奔放に動き出してくれたから、筆が進む。
夜になって夫が帰ってくる。
この時間からは、よほど急ぎのことがない限り、私はもう仕事はしない。夫の仕事の話を聞き、テレビを見て、一緒に笑って、私が作った夕飯を食べる。夫は仕事の帰りに野良猫を見かけたそうだ。ずいぶんと人に慣れていて、夫がスマートフォンを構えても全然逃げなかったらしい。その写真を見せてもらって、可愛いねって言い合って、そういえば長編の結末、悩んでいたんだけれど、猫を鍵にしようと思って。それで、うまく書けそうなの。そんな話をする。
「りんちゃんは、いつも猫に救われてるね」
「ほんと。そのとおりね」
私は愛猫を膝に乗せて、つややかな毛を撫でる。私の何気ない一日が、今日も静かに積み重ねられていく。こんな日がまた明日も続けば、私は幸せ。
紅茶と蜂蜜さんの企画に参加しています。はじめましてなのに、二つも記事書いてすいません。よろしくお願いします。